短夜の夢

□水仙
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目が合ってる筈なのに焦点があってるのはお互いの向こう側。どこを見て何を見て何を感じているの?あなたのなかに、私は……いるの?




あの日から世界が変わった、そう思ったしそう信じたかった。
だけどそれは長くは続くことはなくて時間がたてばたつほど感じる違和感、それは……




あの人とは違う





ということ。




どうやらそう感じていたのは私だけじゃなかったようだった。







「うわーーーーまった雨かよー!!」
『でも良かったんじゃん?土砂降りになる前にココ見つけられて。ねぇ兄さん』
「あぁ、まぁそうだな」




6人と2匹は西へと走り続けている。その途中何度も雨に打たれたり天候に左右されてきているものの、その中でも指折りの土砂降りにまさに今、見舞われていた。
どうやら運良く小雨のあいだに大きめの洞窟を見つけられ、この土砂降りの雨に打たれるのだけは逃れることができたようだ。
悟空はまた降り出した雨に少しげんなりした様子で憂いながら投げた言葉をすぐさま清蘭がキャッチしそのまま義兄の三蔵へと投げる。



「いいですよジープ」
「きゅー!」
『あ、俊雷はもうすこしっ……はい、いいよ。今日もお疲れ』



八戒と朱麗はそれぞれジープ、俊雷の濡れた体を拭いてやる。ジープは八戒の問いかけにまるで ありがとう とこたえるかのように きゅー! となき、俊雷はご主人さまに褒められてぱたぱたとふさふさの尻尾を振り回す。
ジープや俊雷が風邪でもひけば自分達も歩いて進まなければならないのでなによりも2匹の体調管理はおこたれないのてある。




『雨かー…』
「…どうかしたか?」
『別に?雨だとほら、どこにも行けないなー、と思って』
『酒屋さんとかはないんだから外に出ていってもしょうがないでしょ!朱麗!』
『んー。そうじゃないけど』
『…?』
『ま、そーゆーことにしとこう!ほら、ちゃんと髪の毛ふかないと風邪引くぞ清蘭』
『ふぁーい』



…姉貴の言う 別に?、大丈夫、などは大して信じられない。大して、というか絶対に信じられない。そう言えばあの事件が起きて知らせが姉貴の耳に入った日もそう言えば雨の日だったっけか。




『悟浄ー?あんたもちゃんと拭きなさい…座れこの!』
「んあ?俺はそこのちびらと違ってちゃんと自分でできるっつーの」
『ちびらってなによーっ!』
「そーだそーだ!」
『あんた昔からお腹弱いんだからこんな所て風邪ひいたりしたら最悪よ?』
「だーからわーってるっつーのっ!」




いつとどおりに見える彼女のその表情にとりあえずは安堵する義弟、悟浄。その騒がしいかたまりの後ろでは八戒がこういう(雨で薪が拾えない)時などの為に積んである木炭を取り出して重ね、三蔵のライターを借りると暖を取るために丸めた紙に火をつけて木炭の山の中にいれた。
今さきほど感じた違和感と最近感じるようになった違和感と気になって入るものの、特に本人らには変わって様子はなく、お互いにおしゃべりをしてる姿を見て悟浄は少し安心した。


そのあとは何があるわけでもなく夜が来て明日雨が止んだ時点で出発するということで、確実眠りについた。



***



「なぁ…」
『!?…起きてたの?』
「まぁ、な。一本いる?」
『じゃあお言葉に甘えて』



急に後ろから声をかけられて一瞬、臨戦態勢にはいるもその姿が悟浄だということに気づくと声を返し勧められたタバコを一本貰い咥える。



「…で、どうすンの?」
『なぁーに?探りに来たの?』
「別にそういうわけじゃなくて、なんつーか…あ、さんきゅ」



結局違和感が消えずにもやもやしていたのだった。一旦は寝たものの眠りが浅く、目が覚めてとなりを見れば朱麗の姿がなかったので雨も上がっており散歩がてらに探しに来たところだった。



『どうするのかなー。じゃあさ悟浄だったらどうする?』
「はぁ?」
『だから私の立場が悟浄だったら、ってこと』
「どうっていわれてもなー…」
『まっ、そーだよな。あんたはむかしから一人に集中することが今までなかったもんな。あ、今は違うんだっけ?』
「!?…さぁね」



逆に自分の事に突っ込まれてすこしびっくりする。
そんな悟浄をみてくすっと笑ってからひと呼吸置くと話し始めた。



『いつのまにかさ』
「ん?」
『いつのまにか押し付けてたんだと思うんだ。私も、向こうも。自分のなくしてしまったモノのかわりになるように。要らないところを削って足りないところを付け足して、でもそうやってむりくり作られたモノは一つが崩れるとドミノのように、積み上げられた積み木のように音を立てて崩れていくの。たぶんそれが今なの…』
「その崩れは食い止められないのか?」
『…それがわからないからこうやって考えてるんじゃない』
「そう…だよな」



二人は同じ紫煙を同じ空に吐き出した。
人生はあみだくじのようなものなのかもしれない。最初の一歩で大体は決まる道のり、あとをどうするのかはその人次第であみだの線は増えていく。何本も横線が縦線と絡み合う。そうしていつかやっとゴールを迎え死んでいくのだ。ただしそのゴールが最良のものとは限らないが…。



『あ、、、そっか』
「ん?…ってなァ!!!???」
『いいの!!』
「えっ…」
『もう、いいの。これでいいの』
「でも」
『わかってる。でもこれで私はあの人とあの子を忘れてサヨナラじゃなくてこれが新しい一歩なのよ』



そうだ。だからいつまでたっても受け入れてあげられてなかったし、受け入れてもらえなかったんだ。それはとても簡単なことだった。見るべきところは今≠フ一瞬一瞬なのだということにやっと気がついた。



『変わらなきゃ…、前の私じゃ意味が無いのよ』




その顔はとても晴れ晴れとしていた。



「…ん。ならいいんだけどよ」
『…ごめんね?』
「珍しー。朱麗が謝んのなんて」
『なによそれ』
「だってそうだろ?…そんで?」
『…いや、ただ悟浄の期待にだけはいつもそってやれなくて悪いなーと思って』
「それって傷に塩塗ってね?」
『そうかなー?でもいつもこうやって背中を押してくれること、感謝してんのよ?』




朱麗はすこしだけ悟浄をまっすぐ見据えるとの頭をクシャクシャっと撫でる。




「なんだよ」
『…なんでもない。ありがと』
「おう」




ふとした瞬間に見せる女の姿≠ノどうしてもいつも胸のたかなりを抑えることができずにいる。結局いつまで経っても諦められないままなのだろうと、この今の一瞬だけでも愛していいだろうか。



***



そのあと二人は仲良くみんなのところへ戻り眠りにつくも、悟浄だけはうまく寝れないまま気づけば空はしらんできていてどうやら夜が明けようとしてるのだった。




「今日は随分早いんですね」
「あー…まぁちょっとな」
「暇なら火をくべるので薪でも拾ってきてくれませんか?あぁ、でも昨日の雨で木もしけっていてだめですかねぇ…」
「あのー、さ」
「はい?」
「結局お前は…どうしたいわけ?」
「…はい?」



悟浄はタバコに火をつけ煙を吐き出し、八戒は突然にぶつけられた質問に笑顔が一瞬消えるがまたいつもの笑顔を取り戻す。いつもの笑顔よりも偽りの笑顔…。



「なんのことです?」
「お前さなんだかんだでホント大事なときに顔に出るよな」
「そうですかー?」
「鏡があったら見せてやりてぇよ」
「はぁ…」



そんなに顔に出てるかなぁ、と自分の頬をむにむにっと軽くもむ。



「で、どーすんの」
「だからなんの、、」
「朱麗のこと」
「!…あぁ、どうしましょうか」
「あのなぁ…自分らの事だろ?」
「自分でも良くわかんないんですよね」



背を向けているその向こうから聞こえてくる声は あはは といつもの雰囲気をだそうとするも苦笑しているようだった。



「こんなこと俺が言うことじゃないだろうけど朱麗はもうそのための一歩、踏み出してたぞ」
「……」
「旦那との思い出の指輪を投げ捨てて、な」
「!?あ、あれは朱麗の大事な…」
「だから、じゃねぇの?大事だからこそ真剣に向き合いたいと思ったんじゃねぇの?昔のヤローを思い出してやっぱり違うんだって思う現実じゃなくて、お前の、八戒のことをちゃんとまっすぐ見据えたいんだろ?」




いつものおちゃらけた悟浄ではなく真剣な顔をした悟浄がそこにいた。いっそ無くなればいい。そう思わないこともないと言ったら嘘になる。けどやっぱりどっちも大事なのだからどちらの背中も押したくなるただの……




「お人好しですよね、悟浄って」
「……あのなぁ人が真剣に話して、、」
「だってそうですよね?いつもそうやって結局大事なときに自分の事よりも人に手を差し伸べて」
「……」




なんとなく追い詰められてる気がした。当の本人は困った顔をしながら頭をかいている。




「これで僕がなにも変われなかったらどうするんですか」
「そんなこと言われてもなあー…。変われなかったらそれはそこまでってことだろ?あー、つまり俺が奪ってもいいってことだろ?…ま、無理だけどな」
「……」
「結局よ、姉貴はお前じゃなきゃ意味ねぇんだろ。だからこそ姉貴には幸せになって欲しいし、お前が姉貴を幸せにできなかったら承知しねぇからな」


短くなったタバコを人差し指と中指で挟みながら指をさすような形で八戒の方へ向ける。その顔はすこし切羽詰ったように八戒には見えた。




「アチッッ」




決めポーズ(?)を取った瞬間タバコの火は悟浄の指を熱し反射的にタバコから手を離してしまう。




「火には気をつけてくださいね」




八戒は八戒でいつもの笑顔に戻ると悟浄の落としたタバコの火を足で踏み消すとその吸殻を悟浄に返す。




「…へーい」




せっかくの締めを台無しにするところがなんとなく彼らしいのだ。そのあと肩の荷が降りたかのようにスッキリした顔で横になると、寝れなかったのが嘘のように夢の中へと吸い込まれていった。朱麗と八戒はもちろん悟浄自身も自分と向き合い一歩を踏み出したのだった。
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