短夜の夢

□you & me
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こわい たすけて だれか…






どこまでいけど暗闇でそこには出口がないのではないかと思うくらい。このままやどにかえれなかったら、みんなに会えなかったら…どうしよう……。





話は小一時間前に遡る。






「…タバコがもう残りがすくねぇ」
「そりゃなにもしないでバカみたいに吸ってればそうなるでしょ。これを機に兄さんもう少し抑えたら?」
「八戒はどこにいった」
「…人の話聞いちゃいないよ」
「八戒ならなんかキッチンで手伝いしてたぞー?明日の仕込みとかなんとか言ってたー」
「おー悟空…ってなんか食べてるし…」




声のする方を振り返り朱麗が出迎えるとそこにはなにかをもぐもぐと頬張りながら悟空がその宿のキッチンのある方から帰ってきた。





「チッ、あいつはどこいった」
「ごじょーならどっかいった!」





口にいっぱい詰めながら悟空は答えた。






「もー、ちゃんと飲み込んでから喋ってよね!それじゃ行ってくるよ?」
「どこにだ」
「どこにってタバコ買いに?いらないの?」
「いや、いるが…」
「大丈夫だって!チョチョイと行って帰ってくるから!」
「清蘭だってもう18なんでしょー?三ちゃんほんと過保護なんだから〜」
「…うるせぇ。…遅くならないようにな」
「うん!じゃあ行ってくるね!」
「気をつけてなー清蘭!」
「ちゃんと帰ってくんだよー?」






清蘭は悟空と朱麗に手をふられ宿を後にした。
宿を出ればそこは賑やかな繁華街が続く。清蘭は目的の赤のマルボロ ソフト をとりあえず5箱買うと少しだけなら見て回ってもいいだろうとその賑やかな繁華街に消えて行った。
どの店も白熱電球が明かりを照らし、ずっと住んでいたお寺や今まで見てきた街とは違いとても華やかでなんだか心が躍る。



今考えればそれが間違いだったのだ。すぐ引き返せばよかったものの、もう少し、もう少しと入り浸っていく。そしてそこでアカを見つけた。




「あれ?悟浄…?」





紅い髪などめったにいるわけもなくこんなとこにいたんだ、一緒に帰ろうと声をかけようとした。





「おー、い…あっ…」





その手は煌びやかに飾られた服をきておりなおかつスタイルのいい女の人に引かれていた。…いつもの光景といえばいつもの光景なのだが清蘭はなぜだか胸が苦しくなった。





「そ、そうだよね…」






頭の中で悟浄が女の人を連れて歩いていることは街などに来ればいつものことだと自分に言い聞かせながら我にかえったのか宿の方へと引き返すことにした。
振り返ったその瞬間のことだった。目の前には自分よりも大きくて知らない男の人が2人立っており声をかけてきた。





「お姉さんこんなとこでなにやってんだい?」
「い、いえ、あの…」
「旅人さん?宿まで送ろうか?」
「す、すみません!大丈夫です!!」
「あ、ちょっと?」
「ほんとに大丈夫です!!」
「あーあ、行っちゃった…宿屋があんのって逆方向だったよな?」
「何軒かあるけど全部逆方向のあっちだったな」






別にナンパでもなくとっつかまえてどうこうしよう、と考えていたわけではなく純粋に夜に一人で歩いてるから声をかけただけだったのだ。


それでも清蘭からは男≠ニいうモノは未だに乗り越えられない恐怖の一つだった。さすがにいつもいる4人は目を見て話すのはまだ苦手ではあるが普通に話したり隣に座るくらいはできるようになった。






こわい たすけて だれか…

にげなきゃ はやく にげなきゃ 捕まっちゃう…




にげなきゃ!!!





清蘭の息はとても浅く過呼吸を起こしそうなほどだった。すれ違う人が全て自分を見ていてまたどこかへ連れて行かれるんじゃないかという錯覚にまで陥る。




「はぁっ、はぁっ、」




暗闇の中細い路地を走り抜けるが見覚えのある道には出られずに迷うばかり。昼間とは違う風景に見えて仕方がなかった。





「あっ…!」






足がもつれて転んでしまう。立ち上がろうと地面をみれば前からは人の影。足だけが目に入る。がっちりとした感じからどうも女の人ではないようだ。清蘭はもうそれ以上起き上がることができずにうずくまり頭の中で助けを求める。





「(たすけてっ…たすけて……)悟浄…っっ」






とっさに出たのは義理にも兄である三蔵の存在ではなくなぜか悟浄だった。
だがしかし立っている人から手が伸びてくる。清蘭は頭を抱え目をギュッとつぶる。…がその身体に感じたのは痛みなどではなく暖かさだった。






「…え」
「おう、呼んだか?」
「……」
「おーい清蘭サン?」






全くもって理解できていなかった。目の前にいるのが悟浄だという事実だけは理解できたのか少しするとやっと悟浄へと焦点が合う。





「……ご、じょう…」
「つかなーにやってんのこんなとこでこんな時間に。お兄さん(三蔵)に怒られ…えっちょっえ??清蘭!?どうしたよ、どっか痛ェのか?」






いつもと同じ顔。いつもと同じ声。いつもと同じタバコの臭い。恐怖や孤独感から解放されたということに合致がいくと途端に涙が溢れてきた。なんかいもえづきながら悟浄にさすられ泣きじゃくる。

それは一瞬の時間だったのかもしれない。けれど#主人公#にはその一瞬がとても長く感じていた。真っ暗な見知らぬ土地でひとりぼっちのような感覚がしていた。もうこのままみんなに会えないんじゃないのではないか、とまで考えるほどに頭は混乱していた。



悟浄はというとここまで泣く清蘭の姿をみたのが初めてですこし驚いていた。辛そうな顔をするときもあったがここまで泣いていたところは見たことがなかった。



(前にちらっと耳にしたが昔強姦されて男性恐怖症っつーのも関係してんのか?…にしても、なぁ…)





そんなことを考えながらも悟浄はただただやさしく背中をさすっていた。すこしするとやっと落ち着きを取り戻したのか鼻を赤くしすすりながらも涙を流すのをやめた。






「…もう、いいのか?」
「……うん」
「そうかい、んじゃ帰るべ」


「…おもくない?平気?」
「んー重いわー」
「えっ!?うそ!降りるよ!?」
「どあほ。嘘に決まってんだろ。けが人はちゃんと乗っとけって、よっ、と」





慌てて降りようと暴れる清蘭をなだめると悟浄は背負い直す。清蘭は先ほど走り回り転んだときに足をひねってしまっていた。たいした怪我でもないので自分で歩くと言ったのだが悟浄が無理やり背負ったのだった。





「さっきも言ったがそんなに背負われんのがやならお姫様抱っこにするか?」
「そっちのがやだ!!」
「んじゃ大人しくしとけ」
「…はぁーい」





さすがにお姫様抱っこでみんなのところへ帰るのは死ぬほど恥ずかしいのでしぶしぶその大きな背中にもたれることにした。





「(多分だけど悟浄が兄さんにとりあえず撃たれる気がする…)」





義兄の超がつくほどの過保護に関しては少しは自覚していた。




「そんでよー」
「えっ?」
「あんな暗くてほっせぇみちで何してたよ」
「べつに…おつかいしてただけだもん…」
「…おつかいってあんなとこでうずくまるか?ふつー」
「そっ、それは…。あ!!ってかそもそもは悟浄が悪いんだからねっ!」
「はぁ!?なんで俺のせいになんだよ」
「だって…」
「なんだよ」
「べつになんでもないっ!それより悟浄こそ何してたのよっ」
「俺?おれはべつにいつも通り…?」
「…なにそれ」
「そとで酒飲んだりブラブラしたり?」
「女の人に手引かれてたじゃん…」
「あぁ、あれ?あれはほら、なんだ」
「……」






自分が今考えてることがそのまま当たってしまったらどうしたらいいんだろう、なんて考えながらどうしても気になってしまう。他の人だったらどうでもいいはずなのに。
乗り出していた身をすこし隠れるように引っ込めた。





「珍しいからって連れてかれただけだ。めんどくさそうな輩がいたから引き返して帰るとこでお前サンを見つけたってとこだな」
「…え?」
「この髪=v
「あー…たしかにめんどくさいかも」
「だろ?懺悔に値するとかなんとかよくわかんねぇこと言われたわ」






少しの間沈黙が続く。その沈黙を切ったのは
清蘭だった。






「わたしね、悟浄のその紅い髪は懺悔の色なんかじゃないと思うの」
「…というと?」
「うまく言えないんだけどね?懺悔って悔いを改める、ってことでしょ?それってつまり悟浄の存在が悔いる存在ってことでしょ?でもわたしは悟浄に出逢って本当に良かったと思ってるし、悟浄たちに出逢えたことで自分を変えられたと思うの。戒めの血の色だろうと懺悔の色だろうとわたしはその紅い髪の悟浄が好き」
「…おう」
「えっ、あっ、その!!いまの好きってのはあのほら!!…」
「わっちょっ、暴れんなっあっ…」





後ろへバランスを崩してしまう。悟浄はとっさに振り返ると清蘭の頭だけでも、と片手で包み込む。





「ってぇー!だから暴れんなつってんだろ!!」
「っ!!」
「…あ、わりぃ。起きれるか?」







悟浄は清蘭の昔のことをとっさに思い出した。

(そら、誰だってこの至近距離で大声出されたらびびるよな…)




地面と悟浄に挟まれた狭い空間。
きっと前までなら死ぬほど怖かっただろう。でもこの胸のドキドキは怖いからじゃない、たぶんそう。本当はもう少し前から気づいてた、自分の気持ちに。でもそれは自分の中でありえないことだと思ってたから信じきれなかった。





悟浄は清蘭へと覆いかぶさっていた身体をどけると手についた土をパンパンとはらう。前を見ればもう目的の宿もすぐそこに見えていた。




「あー、清蘭…」





なんだかいつも見てる背中より大きく見える。その紅い髪が月の光に照らされていつもより綺麗に見えた。自分の気持ちに確信を持った今もううじうじなんてしていたくない。
気持ちが先を走りそれを追いかけるように#主人公#も小走りで声をかけようと振り返ろうとしている悟浄へとその背中へ抱きついた。






「!?ど、どうした?」
「一回しか言わないからちゃんと聞いて…?」
「…ホイ」
「…………」
「…?」
「……好き」
「…え?」
「悟浄が、好き。今まで男の人はみんな怖いって思ってた。兄さんだけが味方でみんなあとは敵だって思うくらい。でも本当は違った。それでもやっぱり怖いって思うことがまだまだあって、でも、でも…!悟浄といるときも同じように胸がドキドキするの。でもこのドキドキは怖くて逃げたくて焦ってるんじゃないって今やっとわかった。だから悟浄わたしと…」




今言える言葉で自分の中の全てを出しきろうとしたその時だった。悟浄は清蘭の腕からするりと身体をぬくと自分より小さな清蘭の口を塞ぐように軽く触れるだけのキスをした。




「っ!?」
「そんなんずるいぜ?そーゆーことって普通オトコからするもんだ」
「でもっ…」
「俺も多分どっかでビビってた」
「…え?」
「それと同時に羨ましかったし三蔵に嫉妬もしてた」
「なん、で?」
「だって考えてみろよ。初対面とはいえ完全に拒否られてたら誰でもショック受けるだろ?」
「あれは、ほらうん…しょうがないというか…」





ずいぶん前のことを出されて目を背ける。






「俺にはないもんもってる気がしたしよ、それに実際今でもあんま三蔵以外に笑わないし?」
「え?そうかなぁ?」
「嫌でも目に入ったつーか」
「嫌でも?」
「なんつーかうばってやりたくなるってやつ?奪われた後の三蔵のアホ面も拝んでやりたいしな」
「アホ面、ねぇ…結構長安にいた時はアホ面してたなぁー」
「んでよ、」
「ん?」
「清蘭、俺と付き合ってくれるか?」
「……」
「お前のことは俺が守るし、俺の隣で笑ってて欲しいんだ」
「…だめ」
「え!?」
「なんて言うと思った?」
「おまっ…」






そうこたえた清蘭の顔はいつにもまして笑顔で、その笑顔はだれでもなく悟浄一人だけに向けられたものだった。





「ばかやろう」
「うるせぇ、エロ河童、つってね」





ふふ、と笑いながら三蔵の真似をしてみせる#主人公#はなんだかいたずらっ気のあるかわいい子供のようにも見えた。悟浄はまた軽くキスをする。
宿までおぶってやろうと言ったがもうすぐそこなので歩いて行くと清蘭は言い張る。





「ただいま、うわぁっ!!」






……ただいまの声と同時に清蘭はひねって引きずっていた足を扉の小さな段差に引っ掛け、盛大に転んで部屋の中へ入ったのであった。





「だからおぶってやるっていったろ!?」
「だって!!」
「だってもクソもねぇよ、んなこと言ってっと次から強制的にお姫様だっこしてやっかんな、せいぜい転ばねぇように気をつけろよ!」
「うるさいなー、もうっ」







少しの沈黙があり、二人は顔を合わせて笑い出した。残された4人にはわけがわからずにぼけっと眺めてるしかなかった。


自分たちの関係がバレるのは時間の問題だけど今だけは二人だけの、秘密。
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