わーとり

□抜け落ちた
1ページ/3ページ

突然だが、俺がボーダーに入った理由、なんて言うのは無い。
ただ、テレビででっかい化け物をザクザク倒して行く隊員を見て、ただ、純粋に、格好いいと思ったから。
悪者を退治するヒーロー、みたい。
特に、特技も趣味も好きな物もなかった俺にはいい刺激だ、と思い軽い気持ちで入隊した。

入ってから、初めて近界民を倒すとき、自分の武器がずぶずぶと敵の体へ沈み込む感覚、近界民を、敵を、倒す快感というものにどっぷりとハマってしまった。
それからと言うもの、時間さえ有れば知らない奴とも模擬戦で楽しんだ。
相手の腕を切り落としたとき、ふと思った。
こんなの、俺はヒーローなんかじゃなくて、ただの戦闘好きだな、と思った。
まあ、好きな物も出来たしいっかな、位しか思っていなかった。今も、昔も。

そんな、戦いに没頭していたとき。
本部から呼びだしをくらった。
何だろう、と思い会議室のドアを開けると。
そこには、黒髪の目つきの悪い男、茶髪の真面目そうな男、メガネをかけてオドオドしてる男。男、男、男。
あー…察した。部隊か。たぶん。
すたすたと黒髪の男の隣へ立つ。(なんか舌打ちされたけど気にしない)
そして司令は俺たちを見て、目をすっと細めた。
「全員揃ったか。……これから、この4人は、部隊を組んでもらう。隊長は、三輪だ」
えーー、隊長俺じゃねぇのかよ!
ないと思っていたが、やはり自分が隊長じゃない事にちょっとショックを受けていたり。
司令が喋っていたが、どうせ聞いても詰まらないだろうと、ずっと他の事を考えていた。
いやー、メガネ以外みんな目、死んでんなー、とか、三輪って誰だろうな、茶髪か?黒髪か?とか、みんなポジションどこだろーなー、とかそんな感じの事を話が終わるまで考えていた。

「………と言うわけで、解散」
やっと終わったー!話を聞き流していたにしろ、立ちっぱなしだったので足や背中が痛い。
ぐいーっと思いきり伸びをしながら流れるまま会議室を出て、4人は廊下に集まった。
みんなはお互いの顔をみてたりしてた。
なんだなんだ、挨拶か?挨拶するのか?
誰かが口を開くまで、まっていると。
「……三輪秀次。オールラウンダーだ」
と、黒髪の男…三輪が言った。
弱そうな声だったがなにか、憎悪に満ちたような、決意を決めたような声だった。
「俺は米屋陽介っていーまーっす。アタッカーでえす」
なぜかその声が少し、怖くて、払うように明るいバカみたいな声で自己紹介をした。
ボーダーに入ってくるやつの中には、近界民に恨みを抱いているものもいるが、三輪には何があったのだろう。
あまり、そう言うのには首を突っ込まない方がいいし、興味もなかったのだか三輪のだけは少し気になった。
まあ、今はきかない方がいいだろう。下手にトラウマ掘り返して嫌われても嫌だし。
あとは、茶髪が奈良坂ってやつでメガネが古寺ってやつ、2人ともスナイパー。って言うのも覚えた。

その日は自己紹介したあと解散し、次の日学校で自分のクラスへ行くと。
俺の前の席の女子と三輪クンが楽しそうにお喋りをしていた。(三輪クンは無面情だったが)
アレ、三輪クンって実は女好きだったりなのかな……?と勝手に妄想して席につくと、三輪クンは俺の存在に気付いたのか女子との会話をやめ、俺の方へ振り向いた。
「お、オハヨー、三輪クン」
「ああ、おはよう」
昨日会うまで、三輪クンが同じ学校だった事を知らずに(といってもこの学校はボーダー隊員が多い)ぎこちなく挨拶をすると三輪クンも爽やかに挨拶をしてくれた。
「今日は、部隊について色々あるから、3時30分に本部へ集合。ちなみに奈良坂と古寺は他校だから俺達で行くぞ」
覚えておけ、そう言い三輪クンはさっさと踵を返した。
「ご報告アリガウゴザイマス」
すたすたと帰っていく背中にお礼を言った。つか、何か三輪クンがいるとき女子騒いでいたのは、俺が三輪クンと話していたとき恨めしい視線を色んなとこから感じたのは気のせいだと思いたい。

気ダルい睡魔に襲われる(結局負けて寝ていた)授業がやっと終わり、このあと部活がある隊員ではない親しい友達に別れを告げ、教室を出ると、横で三輪クンが待っていた。
「え〜っと、お待たせ」
こうゆうなんか怖そうな人って大体時間に厳しいと言う俺の勝手な偏見で、ビクビクしながら話しかけるも、ちらりとこちらを見て、行くぞ、と言って歩き始めた。
アレ、案外、怖い人じゃないのかも。

マフラーをふわり、と揺らし、背筋をピンと伸ばして前を向いている俺の隊長サマはとても凛々しい。
他のやつなら、頼もしい背中だと思うだろう。
だが、その凛々しさは俺には憎悪で溢れているように見える。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ