わーとり

□それでも
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小さなソファに2人くっついて座る。
秀次はこてん、と俺の肩へもたれている。
秀次のさらさらな髪を手で梳いたり、くるくると指で遊んだり、撫でてやると秀次は気持ち良かったのか、手にすりついてきた。
まるで猫のようで、とても可愛い。
秀次が俺に甘えてくる事、それより俺と秀次が2人きりだなんて三輪隊の連中が知ったらどうなるのだろうか。
秀次曰わく隊員の数人には感づかれている、と言っていたが今更もう戻れないし、戻るつもりもない。
こんな周囲に言ったら驚かれるような関係になったのは、秀次の姉が近界民に殺された日からだった。
あの日、秀次に責められ落ち込んでいるところを、見知らぬA級隊員に声をかけられた。
「やあ、迅じゃあないか。どうしたんだ?そんなに落ち込んで」
片手を上げて、こちらへ近寄る。
「どうも…いやあ、後輩に色々言われまして」
「へぇ…何と?」
顔をずい、と近づけて彼は聞いてくる。
「後輩の大切な人が死んでしまって。お前のサイドエフェクトならこの事がわかったんじゃないのか、ってね。助けてあげたかったんですが、間に合わなくてね…」
いつもははぐらかすのに、何故かこのときだけペラペラと話してしまう。
どうしてだろう。知らない隊員なのに。
「ほお…普段の君なら後輩の家族が死のうと、知り合いが死のうとも、何か言われようとも、表向きでは心配そうに、悔しいそうにして、心の中ではどうでも良いって思っているのに、どうして三輪君の事になるとそんなに悩むんだい?」
何故、何故後輩が秀次なのが分かったのだろう。どうして、俺の心情を知っているのだろう。
疑問は沢山あるのに、俺の脳は全くそう思わず、話し続ける。
「俺は…秀次の事が好きなんです。男同士ですけどね。出会った時に一目惚れしまして」
苦笑いを浮かべる。
秀次のことを好いているのは、誰にも言った事が無いのに、どうしてこの人だけに。
もしかしたら、SEを使っているのだろうか?でも、そんなSEを使う隊員なんて初めて見た。
悶々と考えていると、彼はいやらしくにやり、と笑った。
「チャンスじゃないですか」
「…はあ?」
何か言うと思ったら、なんだそれは。
思わず呆れていると、ビシッと人差し指を俺に突きつけてきた。
「そう、チャンス。三輪君はお姉さんを亡くして、とても悲しんでいる。そこへ君が、謝罪とともに慰めてつけ込んでやれば、簡単に落ちるだろう」
ふふん、と自慢げに彼は言う。
あれ、お姉さんが亡くなったとは言っていないのに。
ああ、見ていたのかもしれない。
考える事が面倒くさくなってきた。
「なる程、いいですね」
ふむ、と回らない頭で頷いてやると、彼はポンポン、と肩を叩いてきた。
「そろそろ三輪君が姉の居ない家に帰るんじゃないかな。行ってみたらどうだ?」
「…そうですね、あなたの言葉を信じて行ってみます」
まじか。思ってもみなかった事を、勝手に口が動く。
「ああ、そういや、あなたの名前は何と言うのです?」
「そういや、言ってなかったね。
俺の、名前は__________」
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