その他

□二重人格
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ED後同棲してる日狛。

「なあ凪斗、俺の事、捨てないで。」
聞き飽きた言葉を、今日も彼は繰り返す。
面倒くさい。いっそ、お前なんか要らない。なんて言ってやろうか。ふと黒い考えが浮かんだが、すぐに振り払った。
彼は、僕を愛している。僕も彼を愛している、だから僕が責任をもって「もう1人の彼」を愛さなければいけない。

もう1人の彼、というのは向こう側で漂っているカムクライズルの事ではなく、日向クンの弱い部分だ。
表の日向クンは強く、絶望の残党だけどしっかり前を向いて、過去を受け入れて、色々な人から愛されている。
そんな彼が、普通の家庭をつくる事を捨て、僕を選んでくれた。
プログラム内では、僕達は愛し合っていたわけではなく、告白なんてしていない。
寧ろ最後らへんは仲がわるかった程だ。
彼は、そんな素振りひとつもみせなかったのに。
僕は、彼の想いを受け取った。僕だって、ソッチの人じゃないし、男なんて小さい時に誘拐され、無理やりされそうになって、トラウマなのに。
だけど、日向クンは違った。日向クンに告白されても嫌悪感は無く、すとんと心に落ちた。日向クンなら、僕を、愛してくれる、そう思った。日向クンが予備学科だからって、自分の人格を捨ててまで才能を手に入れようとした事だって、そんな事はどうでもよかった。僕は、日向創を愛してる。狛枝凪斗を愛してくれている。

その事実が白黒だった僕の世界を、心に色を与えてくれた。
それから、一緒の場所に住み、甘い夢のような日々を過ごした。
僕の左腕の事を考えてか、仕事量が少ないので、遅くに帰ってきた日向クンを玄関でお迎えするとき、まるで新婚さんだなあ、なんて思ってちょっと恥ずかしかった。
だけれど段々、色々復興し始めて、僕達が一緒に居る時間はほぼ無いに等しくなっていった。

久しぶりに、休暇が与えられた日は、散々愛し合った。疲れて、2人ベッドで睡眠を貪っているときに、彼が現れてた。
ぎゅう、と強く抱きしめられ、寒いのかな、なんて思っていると、頬にぽたぽたと冷たい雫が落ち、こまえだ、こまえだ、と壊れたように繰り返し呟くから、驚き目を開けると、涙で溢れた瞳と同じ言葉を繰り返して、顔を真っ青にした日向クンがいた。
「……どうしたの?」
問いかけても、彼は同じ言葉を繰り返す。
「こまえだ、お願い、捨てないで、こまえだ。こまえだ、お捨てないで……」
僕の胸を頭をぐりぐりと押し付け、彼は呟く。
「僕が、君を捨てる訳ないでしょ。」
安心させるようにぽんぽん、と背中をたたきながら、僕より少しかたい髪を撫でる。
それでも、彼は捨てないで、と繰り返し呟く。そのたび、僕は何度も、捨てないよ、と繰り返した。
すると、彼は泣き疲れたのか、すやすやと眠っていった。
翌朝、心なしかすっきりしている日向クンに問うてみても、まったく記憶に無いらしい。

その日以来、弱い彼が何度かてできた。夜に。
そして、何度聞いても知らないの一点張り。日向クンは嘘をつくとき、申し訳なさそうに、ぺたりとアンテナが垂れる。夜の事を聞いているときは、ハテナの形でアンテナが曲がっている。まるで、どこかの名前が長い吸血鬼幼女と一緒にいる主人公みたい、と思っていた。

弱い彼は、いつでもアンテナは垂れていてするり、と頬を撫でるとピクリとアンテナが反応して可愛い、と思ってしまう。
彼はだんだん現れる回数が増えていった。今じゃほぼ毎日だ。だけれど、安心しているのか、返事をぽつりぽつりと返すようになった。
「君は、何なの?」
すると彼は、胸にうずめていた顔を上げる。自然と彼が上目遣いになる。日向クンの瞳、綺麗だなあ、なんて。

彼が言うには、自分は日向クンの不安の塊。やっぱりか、と思った。それぐらい察せた。だが、内容が意外だった。
プログラム内で誰が死んで、みんなを疑って、オシオキを見て。みんなに、頼られて、頼れる相手がいなくて。みんなを救うために、人格を捨て、みんなは感謝する。
カムクライズルの力をもった自分に。みんながカムクライズルとしての自分を拝み、自分はカムクライズルなのか、日向創なのか。自分の存在意義が分からなくなって。そんな自分を「予備学科」と言ってくれた狛枝に、顔に出さなくとも静かに依存していたらしい。不安と、意義と、恐怖が積もりに積もって、もう1つの人格が出来てしまったと。
自分は、気づけなかった。彼の弱さに。いつも不安など知らぬ、というような彼なのに。後悔の涙で、視界が霞む。そんな自分に心配したのかちゅう、と頬にキスを何度も落とす。 ああ、彼に心配されるだなんて。
もう大丈夫だよ、と言う意味を込めて、ぽんぽんと背中を撫でると、僕から顔を離しふにゃり、と笑った。

それから、彼は笑うことが増えた。
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