その他

□うたたね
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渋沢は実のところ、三上亮という人物が苦手だった。
自信に満ち溢れた態度、傍若無人な態度に加え、
これまで付き合ってきた人には無い人を喰ったような笑みがどうしても苦手で、
いつも自然と遠ざけてしまっているのが現状だ。

そろそろ集中力が切れてきたな…
自分の思考が読書とは別の方向に向いてしまっていたのに気付いて、
読んでいた本を閉じて軽く目の辺りを揉み解すと自分が目を使いすぎていたのがよく分かる。
このまま少し眠ってしまおうと床に寝そべった。
日差しは柔らかく、
ひんやりとした床が気持ちいい。

渋沢はすぐに眠りについた。



「たぁつみー?辞書貸して…って居ねぇし」
骨折り損だった、と呟きながらドアを閉めようとしたとき、下の方に見知った頭を見つけた。

…渋沢じゃん

ゆっくりと側によるが全く反応を示さない。
もう少し近づくと、規則正しく上下している胸と、微かな寝息が聞こえ、当人が熟睡していることが分かる。
俺がこんなに側に近づいても起きないなんてよほど疲れてんのな。
三上は自分が渋沢に良く思われていないのを知っているが、更に近くに寄っていった。


日本人にしては色素の薄い鳶色の髪が、橙の夕陽も相まって優しい色合いをしている。
やっぱ髪も柔らかいのか?
恐る恐る髪に触れると柔らかい髪が指に触れる。
柔らかいんだ…
いつもは自分と接する時は妙に構えてるくせに、寝てるときはこんなに無防備なのか。
三上は最後にそっと頭を撫ぜると渋沢のベットにあったブランケットを掛けてやる。
「おやすみ」
無意識のうちに零れた笑みは、いつもの彼からは想像出来ないような柔らかいものだった。



辰巳が帰ってくると、それにつられるように渋沢が目を覚ます。
「悪いな、起こしたか?」
「いや…」
寝起きで上手く動かない体を動かすと、掛けた覚えの無いブランケットがずり落ちた。

辰巳が掛けてくれたのだろうか?

「悪いな、これ、掛けてくれたのか?」
すると辰巳ははて、と首を傾げ、その流れで首を横に振る。
「いや、俺が帰ってきたのはお前が起きる直前だった」
辰巳の返答に今度は渋沢が首をかしげた。
元々自分は誰であろうと人が近づくと起きるタイプで、よほどの事がない限り起きるのだ…
不思議に思いつつブランケットを元の位置に戻して、
読書をしなおそうと文庫を手に取り椅子に座ろうと立ち上がると、部屋にノックの音が響いた。
「辰巳、いる?」
返事も待たずに開けたのはかの三上で、それとなく目線を逸らす前に目が合ってしまいさり気なく、
「おはよ」
と言われた。

返事を、と思ったときすでに相手は辰巳のほうに意識を向けていて、失敗したな。と心の中で舌打ちする。



……………………ん?

「三上」
「あ?」
「今なんて言った?」
「分かってんなら黙って貨しゃぁいいんだよ?」
凄まじい言葉だな…じゃなくて、
「最初に、おはようって言ったか?」
そういうと三上は目を大きく開けて口に手を持ってくるというベタな反応をした。

「ワリィ、昼に黙ってここ来た…」
「そのとき毛布掛けてくれたのか?」
小さく頷いた。

「そっか、ありがとな」
「…ドーイタシマシテ」
居た堪れなくなったのかそれだけ言うと辞書を引っつかんで部屋を出てしまった。


顔を真っ赤にして走り去っていくのをみて、渋沢は思わず笑みをこぼす。
今まで三上を表面上でしか見てなかったが、もしかすると大きな勘違いをしていたかもしれない。

今度会ったら自分から声をかけてみよう。

渋沢はひっそりと心に決めた。
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