ひかりのおはなし 及川

□●ひのひかり A
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「戸隠さん」


日傘をさしているから上から見ても誰だか普通なら分からないかもしれない。

でも、その場の雰囲気で彼女だとわかった。

日傘がかすかに揺れる。

同じ目線になるために隣に腰掛けた。

ほら。やっぱり戸隠さんだ。


「及川さん…?」

「嬉しいな!名前覚えていてくれたんだ!」

「…いつも大勢の女の子からそう呼ばれているから」

「そっか。それでかー。
でもそれでもいいや。覚えてくれたのなら」


ニコッと笑いかけると、戸隠さんは目を合わさず、すっと少し身体を遠ざけた。


「ね、バレー興味あるの?2回くらい見に来てくれてるよね?」

「そういうつもりじゃないです。
久々の学校で歩いて回ってるんです」

「そうかー。
それでも、見に来てくれたのなら嬉しいな!」


絶えず笑顔で話す。
戸隠さんは静かに淡々と返してくるけど、
いつも女の子たちと話すのとは違う楽しさがあった。
やっと会えた。やっと話せてるという思いがあるからかもしれない。


「お昼はここでいつも食べてるの?」

「そうですね…
…私、ずっと病室にいたから、太陽の日差しを浴びたくて。
でも、焼けたくないから日傘なんです。矛盾してますよね。変ですよね」

「全然変じゃないよ!戸隠さん、日傘似合うし」

「そうですか。それならよかった」

「ねぇ、これから一緒にここでお昼食べて良いかな?」

「…及川さんって、人を巻き込むような方ですね。話しすぎました。
失礼します」


そう言ってすっと立ち上がり目の前を横切ろうとする。

なびくほんの少しだけ膝から上丈のスカート。


「じゃあさ、また水曜日にバレー見に来てよ。
この前は追っかけて驚かせちゃったけど、次はそうしないから」


日傘を差したまま立ち止まり


「太陽の日差しって眩しい。
前から興味はあったんですけど、
やっぱり私には眩しすぎました。
…失礼します」


小さな声で独り言のように言って戸隠さんはまたどこかに消えてしまった。
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