たった1ミリが遠くて
□埋めようのないゼロセンチ
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……どうして。
いつもいつも、笑顔でノヤを迎えることが出来ないんだろう。
私には、笑顔でいることしか出来ないのに。
「──…ん………」
「っ、もへじ!だいじょぶか!?」
「もへじっ!!」
鼻を掠める薬品の香りに意識が起こされて、うっすら瞼を開ければ眩しいくらいの視界が開けた。
そこには、私の大切な幼なじみがいた。
……薫、帰ってなかったんだ。
きっと、ノヤの帰りを待ってたんだ。
なんだ……やっぱり、三人じゃなきゃ駄目なんだ。
ちらりと頭だけそちらに向ければ、自分の気だるい身体が重みを感じた。
ノヤがベッドに思い切り乗っかって顔を覗き込んできたため、思わず心臓が掴まれたようにはっとなって手でパイプ椅子へと押し退けた。
……心配してくれたのはわかるけど近すぎ……!
薫もなんかはらはらしてるじゃんか……もう…。
「……だ、大丈夫だから。二人は早く帰んなよ。私、一回潔子さんに会ってから帰るから」
欺くようにわざとらしい明らかに苦い笑みを溢しながらこれ以上親密になってしまう二人を見たくないという醜い気持ちが率先してしまい、パイプ椅子に腰かけるノヤの膝に置かれた手がぴくりと動いて。
あの、射るようなくりっとした瞳が私を写した。
となりに立つ薫は、淀んだ雰囲気を読み取ったのかおろおろと心配そうに私とノヤを交互に見つめていた。
「……なぁ」
「何?」
「お前、なんか、」
──ヤメテ。キキタクナイ。
「……俺のこと、避けてるよな?」
────なんでだよ?
…意味がわかんねぇ…っ……。
唇がすりきれるんじゃないかってぐらい噛み締めた痕。
薫のどうしようもない心配した表情と。
──…旭さんがトスを呼ばなかった試合の後の、あの日、ノヤが泣きそうになって旭さんと体育館倉庫で熱く言い争っているのを思い出した。
目頭が、あつくなった。
「……っ…」
違う。違うの……。
本当は、薫には悪いけど、二人きりで、ノヤと話したいよ……
……けど、けど────。
目の前の二人を裏切りたくなくて、自分の気持ちが醜くて、けど、うまくいって欲しくないと思うのに、何故だか、どこかで、二人の幸せを願っている自分がいた。
────臆病者の頬を、涙が伝った。