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□試作品625号 ルーベン
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「わあ! 今日もサンドウィッチ持ってきてくれたの?」
「うん、君がいつも美味しいって言ってくれるからね。 作ってる俺も嬉しくて」
今日もまた、とある女の子の元へサンドウィッチを届けに来た。
彼女との出会いは偶然だった。サンドウィッチの材料を調達しようと、ガントゥの宇宙船から出て町にでてみると、建物のすぐそばの木陰で女の子が倒れていた。どうしたのかを尋ねると、お腹が空いていたらしい。丁度サンドウィッチの材料を買うところだったので、サンドウィッチをご馳走することにした。
すると、彼女は嬉しそうに頬を緩め、一言、美味しいと言った。
別に美味しいと言われたことが少ないわけではなかった。むしろその逆、自分の作ったサンドウィッチを食べた者は皆口を揃えて美味しいと言ってくれた。
しかし、何故だろうか。彼女からの美味しいが、とても嬉しく思えたのは。
理由はわからないが、初めて会ったその日からずっと、俺はサンドウィッチを作り届けている。
「あ、そうだ。私、ずっとサンドウィッチをご馳走になってるのに何もお礼してなかった」
「お礼なんていいよ。俺もサンドウィッチ一緒に食べる人が出来て嬉しいし」
「そう?」
「うん、いいの」
言い終わってから一口サンドウィッチをかじる。君が俺のために何かしようとしてくれた。その気持ちだけで充分幸せだった。
「うーん、残念。私、貴方が好きだから何かしてあげたかったんだけどな」
隣でぽつり、独り言のように小さな声で、そう言ったのが確かに聞こえた。
心臓は急速に動き始め、体温はみるみるうちに上昇して行く。驚きで、目は大きく開いたまま。ちらと隣の彼女を見てみると、俯きながらもその頬は赤みがさしているように見えた。嬉しくて、でも締め付けられるような痛みが襲う。
ああ、もしかしてこの感情は。
それに気づいた俺は、さっきのお礼のことだけど、と声をかけた。
「俺、君に名前を呼んでほしいんだ」
えっ、と少しうわずった声で答える彼女。そういえば、俺は君の名前も知らなかった。
「イトコの友達がつけてくれた名前でね。ルーベンっていうんだ」
あと、君の名前も教えて欲しいな。と付け足せば彼女はゆっくり名無しさん…と教えてくれた。
「俺、好きだな。名無しさんのこと」
少し恥ずかしかったけれど、しっかりと伝えると、名無しさんはさらに顔を赤く染めた。
「私もね、ルーベンのことが好き!」」
あのときの笑顔で、そう答えた名無しさん。
俺がサンドウィッチを届ける理由は、初めて会った時の、美味しいといってくれた彼女の笑顔に惹かれたからかもしれない。と、目の前の彼女を見て思った。