ぷよぷよ
□クルーク
1ページ/1ページ
「クルーク、ねえ、クルークってば」
「なんだい? 読書の邪魔なんだけど」
「気にしないで、勝手に呼んでるだけだから」
そう言って、さっきから僕の周りを動き回る名無しさん。ああ、今日もか。と思いながら手にした本に目をうつす。
彼女が僕の周りをウロウロするのは、僕と彼女が同じクラスになってすぐのことだった。前は別のクラスだったから、接点など思いつかなかった。しかし、彼女はどうやらアミティから僕の話を聞いていたようで、僕のことを知っているようだった。クラスではたまに声をかけてきて、普通に会話するくらいにはなっていたのだけれど。
「あのさ、何でそんなに僕の周りをウロウロするんだい?」
「えっ」
耐えかねた僕は溜息をついたあと、彼女に問う。気づけばいつも視界の何処かに名無しさんがいたし、僕に声をかけてくる。こんなにしつこいのはアミティくらいだ、と思った。
「え…と」
「もしかして、天才の僕の秘密でも探っているのかい?」
ま、そんなことしても無駄だろうけどね。
僕は早くこの場から立ち去って欲しくて、わざと突き放すようなことを言った。これがラフィーナなら「言われなくても、誰が貴方の近くになんかっ」とかなんとか言って早々に立ち去るだろうし、アミティと違って彼女は意外と突き放されるような言い方が苦手だ。これならすぐ居なくなってくれるだろう。そう思ったのだけれど。
「…どうしてクルークは私を嫌がるの? 私はクルークのことが好きなのに…」
そう、小さく呟く声が聞こえた。
ページをめくろうとしていた僕の手は、その言葉に反応して動かなくなった。
別に嫌っているつもりはない。ただ、常に僕の目に入るところにいて、僕の周りを動き回って、しつこい奴だなとは思っていた。でもそのしつこさのせいか、気づけば僕の目が勝手に彼女を追っていたし、僕も彼女を好いてはいるんじゃないだろうか?
心の中に浮かんだ考えが、僕の思っていたものとは違っていたのが気に入らない。
でも、気づいてしまったのだ。
「…おい」
ああ、もう、腹が立つ‼︎
なんでこんな奴が……‼︎
「勝手に勘違いしないでくれるかい?」
もうイライラとともに吐き出してしまおうか。気付きたくなかった感情を。
「僕は一言も嫌だなんて言ってないぞ!」
こんなに緊張するのは、いつぶりだろうか。
それでも不安がないのは結果が分かっているからかもしれない。