My little gray cells
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「知らないかもしれないけど、俺は戦略ボードゲーム部なんだ。」
そういう切り出し方だった。....きっとこれは事件とは関係のない話だよね。
「別に知りたくもないけど。」
心底どうでもよさげなホームズの言い方に笑ってしまいそうだった。なのにワトソンはその話に乗ってしまったものだから事件からどんどん話がそれていく。
「戦略ボードゲームって?」
「戦争や外交の歴史をゲームにしたやつさ。」
「僕はあまり好きじゃないんだ。歴史は『もし』を考えるとキリがないだろう?」
「へぇー....難しそうだね。」
ワトソンがほとんど理解できていないように抜けた返事をした。僕がレストレードを見ると目が合った。そしてやっと事件の話に入った。
「昨日の夕方、教室でゲームをしていたら見たことない生徒がいて....。その生徒はアーチャー寮2年のアロイシャス・ガルシアって言ってた。俺も自己紹介したんだ。あ、俺の名前、ゴードンって言うんだ。」
「ゴードン?」
僕が聞き返すと笑顔でそうだよ、と返ってきた。そして名前で呼んで欲しいとも返ってきた。僕はあまりファーストネームで人を呼ぶのが得意じゃない。恥ずかしいから。でも、レストレードがしてくれ、と頼んでいるのだからこれからは頑張って呼ぶようにしよう、という思いで頷いた。レストレー...ゴードンはホームズの肩に手を置こうとしたけれどホームズが怒って立ち上がったからレスト...ゴードンはソファーに顔を突っ込んでいた。
「ついでに君の両親の名前も聞いておこうか?」
「さ、先を続けて?」
ワトソンがホームズの機嫌の悪さに気付いてレス...ゴードンに先を促した。
「ガルシアと名乗ったそいつは初対面だが妙に話があった。」
「彼は部員じゃないのか?」
ホームズがそう聞くとゴードンはやたらと胸を張って戦略ボードゲーム部は自分しか部員がいない、といった。ワトソンと僕はひそかにそれは部活じゃないよね、と毒づいた。ゴードンは気にせずに話を続けてくれた。
「彼は俺のゲームを見てウェリントン将軍を思い出す、と言ってくれた。実は俺、ウェリントン将軍を尊敬しているんだ。」
....ゴードンの悪い癖は関係のないお喋りをするところだ。君の個人情報なんて僕たちは求めていないのに。
「こうなったらもう、君のすべてが知りたいよ。」
そう皮肉を込めてホームズはレストレード、じゃなくてゴードンに言った。....やっぱり心の中だとはいえファーストネームは慣れないな。僕は1人、心の中でごちった。ワトソンの再びの促しによってゴードンは話を再開した。
「その日の夕食の後、俺はガルシアの部屋に呼ばれた。ガルシアと同室のヘンダーソンという男も加わって俺たちはクッキーを食べながらウェリントン将軍が如何に素晴らしいか語り合った。話が盛り上がってすっかり長居しているうちに俺は眠ってしまっていた。起きたら部屋には誰もいなかった。おかしな事にテーブルの上は昨日のままの状態でガルシアもヘンダーソンも消えてしまったんだ。」
「消えてしまった!?」
ワトソンは大仰に驚いた。僕はそのワトソンの声に驚いた。ホームズは目を閉じて考えているみたい。僕も面白そうな色が隠れていそうなこの事件について考えてみることにした。
「そうなんだ。俺は訳のわからないまま自分の部屋に戻り、そして授業に出た。夕方、彼らの部屋に言ってみたらまだ戻ってない。確認したら今日の授業、2人とも無断欠席してるじゃないか。あいつら完全に消えちまったんだ!
どういう事だと思う?ホームズ、サティー!」
「....面白い。」
ホームズはある程度考えがまとまったみたいだ。僕もなんとかまとめてみようとした。
....初対面で話の合う男、ガルシア。その男と同室のヘンダーソン。その2人が寝ている間に消えてしまってまだ帰ってきていない....。普通に出かけているだけではなさそうだし....何かしらの事件や事故に巻き込まれて身動きが取れなくなっているんだろうか?少し僕には資料が少なすぎる気がする。
そう考え込んでいると急にドアが開いて誰か入ってきた。