My little gray cells 番外編
□Gの考察
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僕はクーパー寮3年、生活委員のゴードン・レストレードだ。ここ、ビートン校の生活委員というのは奇妙な事件に関わることが多い。それらは、恥ずかしながら僕たちだけでは解決できないような事件ばかりだ。そんなとき、僕が頼るのは学園1の名探偵....
シャーロック・ホームズとアレクシア・サティーだ。
この二人、尋常じゃないほど頭がキレる。そして常に一緒にいる。アレクシアはちょっと前に転校してきた転校生だけどホームズに馴染む唯一の友人だ。僕は実はホームズがいつも孤独そうで心配していたんだけどそれもアレクシアが転校してきてからはそんなことも無くなった。
「ゴードン?何を考え込んでいるんだい?君らしくない。」
「アレクシア!」
えい、という無感情な声と共に頬をつつかれた。驚いて隣を見るとアレクシアがいた。
「一体何がそんなにゴードンを困らせているんだい?」
「いや、事件じゃないんだけど....」
そういうと分かるくらい大袈裟にアレクシアは落ち込んだ。そして恨めしいものを見るように僕を見る。これは最近よく思うことなんだけど、意外とアレクシアは子供っぽいところがある。
「事件じゃないならゴードンに用はないんだけど?」
「ひ、ひどい言い草だね....。
いや、アレクシアも変わったなぁーって思ってさ。」
「あぁ....そうだね。」
アレクシアは儚く笑った。僕の経験によるとアレクシアは昔の話をするととても儚い笑いを浮かべる。
「ほら、来たばかりの頃はずっとベッドでシーツにくるまってただろ?で、僕がホームズに依頼するたびにひょっこり頭だけ出してさ....」
「あはは。そんな時もあったね。あの時は実はすっごく気になってたんだ、ゴードンの話。色んな事件があったよね。そしてその事件を華麗に解決していくシャーロックに僕はいつも感心してた。
そして僕はシャーロックに協力することにしたんだ。」
「君のお眼鏡に適った、ってわけか。」
「お眼鏡に適うというより僕がシャーロックに惚れ込んだ、に近いかな。あんなに綺麗な色を見つけられるなんて素晴らしいよ。」
アレクシアは事件を解決に導くとき、『色』と言う言葉をつかう。彼の頭の中には『灰色の地図』があり、それに『真実の色』を付けていくのが彼の一生の使命、らしい。一応、ホームズはこのことを理解できているらしい。が、僕も、もちろんワトソン君も理解できない。どうやら彼の事件の解き方は凡人には分からないみたいだね....。
「僕もだけど、シャーロックも変わったと思うな。」
優しく微笑みながら遠くを見つめるように呟いた。その姿は男にしては柔らかいものだった。こういう所謂、優男ってやつが女の子にモテるんだろうな。
「確かに。人間らしくなったね。」
「そうそう。柔らかくなったというか、優しくなったというか。」
「優しいのは君にだけだよ。」
これは僕の過去の経験からだ。ホームズが未だかつて僕に優しかったことはない。元々他人に無関心な男だしね、ホームズは。けれどアレクシアは違う。アレクシアは過去に大きなトラウマのようなものがあって、それを知っているのはホームズだけだ。だからホームズも気を使っているのかも。
「そんなことないさ。シャーロックは変わったんだ。....最近は君のことも褒めることだってある。」
「本当に!?」
ホームズが僕のことを褒めただって?僕は喜びのあまり頬が緩む。そんな僕を見てか、アレクシアはくすり、と上品に笑って窓辺へ歩いていった。僕の考えではアレクシアは上流家庭で育てられてきたんだと思う。とっさに出る動きや表情が上品だから。
「僕が君に嘘をついてどうするんだい。」
本棚の上の方にある本を取ろうと踏み台を登りながらアレクシアは言った。一番上の段に足をかけた瞬間、その足が段から滑り落ちた。当然、アレクシアの体が地面に吸い寄せられる。
「危ない!アレクシア!」
「えっ....!?」
僕は慌ててアレクシアの元へ駆け寄り、なんとか間に合った。アレクシアの体は床の上じゃなくて僕の腕の中にある。
「大丈夫かい?」
「あ....れ、れすと、れど....」
僕は心配で顔をのぞき込むと顔色を悪くして異常なほど体を震えさせているアレクシアがいた。僕は何が起こったのかわからなくてどうしようもなかった。こんなときにホームズでもいてくれたら....!
「....レストレード、何してるんだ。そんなところで座り込んで。」
「ホームズ!いいところに来てくれた!アレクシアが....」
「アレクシア!?」
ホームズは僕が腕の中で震えているアレクシアを見せると驚くほど機敏な動きで僕のところへ近付いてきた。
「何をした、レストレード。いや君は何もしていないな。そうか、落ちそうになったアレクシアを助けたのか。礼を言う。けどアレクシアにはトラウマがあると言っただろ?これはそれに関係しているんだ。悪いけど今日はもう帰ってくれないか。事件ならまた明日聞かせてくれ。」
ホームズは早口にそういうと僕を無理矢理部屋から追い出した。僕の目の前で大きな音を立てて扉が閉まった。特に用事があって来たわけじゃないけれどどこか疎外感を味わった。
「221B....か。」
この部屋には不思議が満ち溢れすぎていて僕には手に負えないみたいだ。僕は今日、この部屋に来てから様々な考察を繰り返したけれど確実に分かったことはたった一つだけだった。
「どうもホームズはアレクシアのことを特別視しているみたいだ。」
ベイカー寮を出て、自分の部屋に帰るまでにもいっぱい考えてみたけれど、学園1の名探偵さんたちは何を考えているのかよく分からない。
これが僕の、ゴードン・レストレードのホームズとアレクシアに対する考察結果だ。