私のヒーローアカデミア

□第5話:ワン・フォー・オール
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『君はヒーローになれる』

オールマイトの言葉が心の中で反響する。
ずっと誰かに言ってほしかった。
憧れの人が、言ってくれた。
こんな…これ以上の衝撃があるだろうか。





未だ涙を流し続ける私に、彼は続けて言った。

「君なら私の"力"、受け継ぐに値する!!」

私は涙と鼻水でグチャグチャになった顔でオールマイトを見上げた。

「…へ…?」
「なんて顔をしているんだ!?「提案」だよ、本番はここからさ。いいかいお嬢さん。





私の"力"を、君が受け取ってみないかという話さ!!」





オールマイトは盛大に血を吐きながらズビッ!と人差し指を向けてきた。
………力…を?
何を言ってるのか分からないという私の様子に、彼は血を拭いながら説明を続けた。

「私の"個性"の話だお嬢さん。写真週刊誌には幾度も"怪力"だの"ブースト"だの書かれ、インタビューでは常に爆笑ジョークで茶を濁してきた。"平和の象徴"オールマイトはナチュラルボーンヒーローでなければならないからね」

言いながら髪をかき上げ、空を仰ぐ。

「私の"個性"は聖火の如く引き継がれてきたものなんだ」
「引き継がれてきた…もの?」
「そう、そして次は君の番だということさ」

私は混乱して頭を抱えた。

「ちょっ…!ちょっ待っ…待って下さいオールマイトの"個性"は確かに世界七不思議の一つとして喧々囂々と議論されてきましたよ、ネットじゃ見かけない日はないくらいに。でも…あの…"個性"を引き継ぐってそれはちょっと意味が分からないというか…そんな話今まで聞いたこともないし議論の中でも推測すらされてないわけで、それは何故かってつまり有史以来そんな"個性"は確認されてないからっていうか、そもそもアレです生まれつきの固有の身体的特徴であって自己を確立する要素だからこその"個性"な訳であって…」

ついクセでブツブツと考えを口にする。
そんな私を、オールマイトは一刀両断した。

「君はとりあえず否定から入るな!!ナンセンス!!」
「なっなんせんす…!」
「私は隠し事は多いが嘘はつかん!





個性(ちから)を"譲渡"する個性(ちから)…それが私の受け継いだ"個性"!

冠された名は「ワン・フォー・オール」」





「ワン・フォー…オール…」

私は"個性(ちから)"の名を復唱した。

「一人が力を培い、その力を一人へ渡し、また培い次へ…そうして救いを求める声と義勇の心が紡いできた、力の結晶!!」

力の、結晶。
何だかすごいものに聞こえてきた。

「そんな大層なもの何で…何で私なんかに」
「元々後継は探していたのだ…そして君になら渡してもいいと思ったのさ!





"無個性"で只のヒーロー好きな君は、あの場の誰よりもヒーローだった!!」





あの時、人混みの中から飛び出していった記憶が思い出される。
誰よりも、ヒーローだった…この私が?
感激と、嬉しさのあまりまたジワ、と涙が溢れてきた。

「まァしかし君次第だけどさ!どうする?」





私は眼鏡の下でゴシゴシと涙を拭った。
ここまで言ってもらえて…私なんかに大事な秘密まで晒してくれて!
断る理由なんて…

「ーーーお願い、します!」

あるわけなかった。

「即答。そう来てくれると思ったぜ」

オールマイトはニッと笑った。





ーーーけれど、"力"を貰うっていうのは決して生易しいもんじゃなかったんだ。










ーーー





二日後、朝6時。





「ふんぐっ!!!」
「ヘイヘイヘイヘイ何て座り心地の良い冷蔵庫だよ!」

体に巻きつけた縄の先には、大きめの冷蔵庫とその上に座るオールマイト。
私は歯を食いしばって縄を引っ張るが、これっぽっちも動きはしなかった。
挙げ句の果てには踏みしめた足を滑らせドテッと転んでしまう始末。

「ピクリとでも動けばちょっとは楽だったんだけどなー!」
「そりゃ…だって…オールマイト274kgあるんでしょ…」
「いーや痩せちゃって255kg」
「ていうか私何で海浜公園でゴミ引っ張ってるんですか…?」
「それはアレさ!君、器じゃないもの。ふくよかだし」
「仰ってる事が前と真逆!!?」

例によりHAHAHAHAとローマ字表記で笑う彼に、涙がドバァと滝のように溢れた。
「うわああああん」と泣き崩れる私をオールマイトは「ウケる」と笑いながらパシャパシャ写メる。

「身体だよ身体」
「ぐすっ…?」
「「ワン・フォー・オール」はいわば何人もの極まりし身体能力が一つに収束されたもの!生半可な身体では受け取りきれず、四肢がもげ爆散してしまうんだ!!」
「ししししし四肢が!!!??」

自分の体がそうなってしまうえげつない想像に、自ら震えた。

「じゃあ…つまり身体を作り上げるトレーニングの為に…ゴミ掃除…?」

イマイチ合致しない二つの事柄に、私はカクッと首を傾げた。

「YES!だがそれだけじゃない!昨日ネットで調べたらこの海浜公園、一部の沿岸は何年もこの様のようだね」
「ええ…何か海流的なアレで漂着物が多くて、そこにつけ込んで不法投棄もまかり通ってて…」
「最近の若いのは派手さばかり追い求めるけどね、ヒーローってのは本来奉仕活動!」

オールマイトは先ほどの冷蔵庫の上に片手を添えると、メコメコと押しつぶしていく。

「地味だ何だと言われても!そこはブレちゃあいかんのさ…





この区画一帯の水平線を蘇らせる!!それが君のヒーローへの第一歩だ!!」





最後にメコオッ!!と大きな音を出して冷蔵庫はペシャンコに潰れ、その拍子にブアッと風圧。
それまで遮っていたものがなくなり、水平線から覗く朝日が私の顔を照らした。
が…清々しいなんて悠長に言ってる場合ではない。

「これを…掃除…!?全部…!?」

周りに広がるゴミの山々を見渡し、気が遠くなった。

「お嬢さんは雄英志望だろ?」
「はっはい!!雄英はオールマイトの出身校ですから…行くなら絶っっっ対雄英だって思って…ます!」
「くー行動派オタクめ!」

思わず照れながら拳を握る。
オールマイトはくるっと私に背中を向けた。

「前にも言ったが、"無個性"でも成り立つような仕事じゃない。悲しいかな現実はそんなものだ。ましてや雄英はヒーロー科最難関!つまり…」

私はハッとして立ち上がった。

「入試当日まで残り10ヶ月で…身体を完成させなきゃ…!」
「そこでこいつ!私考案!「目指せ合格アメリカンドリームプラン」!!」

オールマイトは取り出した紙の束を手の甲で叩いた。
私は頭にハテナを浮かべながらもそれを受け取る。

「"課題(ごみそうじ)"をより確実にクリアする為のトレーニングプランだ!生活全てをこれに従ってもらう!!」

ざっと見ただけでも相当細かく記してある。
起床時間、食事メニュー、平日と土日の過ごし方、フェーズごとのトレーニングメニュー…

「寝る時間まで…」
「ぶっちゃけね超ハードこれ。男の子でも相当ツラいだろうな〜お嬢さんついてこれるかな!?」
「〜〜〜そりゃもう…!

他の人より何倍も頑張らないと私はダメなんだから…!!」





こうして、地獄の10ヶ月は幕を開けた。

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