prescription
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ピッ…ピッ…ピッ…
心電図の音が静かな保健室に響く。
「まだ…目ぇ覚めないのかぁ…?」
ベッドの横にある椅子に座って俺は1週間も眠り続ける菊を見つめていた。俺の後ろから少し離れてスクアーロが遠慮がちに声を掛けてきた。
一定のリズムを刻む心音はとてもゆっくりでいつか止まってしまうのではないかという恐ろしい錯覚に襲われる。
「…心配すんなよ、死にゃしねーさ」
そう言う自分が一番動転している。
腕は複雑骨折、あばら骨も4本と左足の骨折。頭蓋骨にもひびが入ってた。内臓系の内出血も酷い。腹部は大きく斬られていた。
生きているのが不思議なくらい重傷だった。致命的な傷が無かったのが幸いだ。
スクアーロは険しい顔をして踵を返し、保健室を出ようとした。
「…顔見てかねーの?」
「…菊に会わせる顔がねぇ、俺は、菊を守るどころかこの手で傷付けた」
スクアーロは自分の拳を怨めしげに見つめ握り締めた。包帯の巻かれたその手のひらは東城を守らんとナイフを握りしめたときの傷がある。傷が開いて血が滲み手のひらを真っ赤に染めた。
「…今回ばかりはあいつが悪い、気にするんじゃねーよ」
「あの腹の傷は俺だ…俺の剣が付けた傷跡だぁ。…もし、菊が目覚めなかったら、その時はあいつの代わりにあんたが俺を斬れ」
スクアーロは本気だ。
俺は居心地が悪くなって視線を反らした。
「…お前は菊なんぞ簡単に殺れた筈だ」
何の話だ、と言うようにスクアーロは眉を潜めた。
「だがこいつは生きてる。お前は東城の洗脳と戦って無意識に急所を外したんだろうよ」
「……………。 」
それでもスクアーロは納得できない様子だった。俺は溜め息をついて菊の頬を撫でた。
「俺にも否はある。
…いや、そもそもの原因は俺だ」
スクアーロは訳がわからないと言ったように小首を傾げた。俺は少し躊躇って、菊を見ながら口を開いた。
「菊の記憶を奪ったの俺だから」
「…あ"ぁ!?
うぉぉぉぉい!どういうことだぁ!?」
スクアーロは俺につかみかかってきた。当然だ、こうなることは予想できていた。
「…何故あんたが!菊の養父ってーのも嘘かぁ!?」
「俺は菊の父親だよ、あいつを守るためさ」
俺は親指で本棚の方を指した。
「本棚の医学書の裏」
何がだ、といいながら俺から手を離してスクアーロは本に手をかけた。
一番太い医学書を放り投げるとその奥から現れた小さな小瓶を手にとった。
「何だぁ…これは…」
小瓶に閉じ込められた黒く渦巻く煙を訝しげに睨み付ける。
「菊の記憶。
ドス黒くて気味悪いだろ?
それだけ凄惨な記憶なんだよ、忘れた方がいいに決まってる」
「…エストラーネオか」
「あぁ、そうだ。
いいさ、お前には話してやるよ…手短にね」
真夜中の保健室
菊の心音が一定のリズムで
静かにゆっくりと刻まれる
心電図の音が反響する
俺は胸元から煙草を取り出して
静かに火を付けた。