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美しい髪をなびかせて廊下を颯爽と歩く男を擦れ違い様に目で追った。
ボンゴレの本部で働いていればこんな私でも裏社会で名の知れた大物を見掛ける事がある。


私はボンゴレで働くしがない事務官。裏社会とは言え、事務作業なんかはそこらの会社と変わらない。地味で裏方の私を知る人なんてほとんどいないだろう。


というのは表向きで。
私はボンゴレ専属の殺し屋。
これは九代目と家光しか知らない。
それでも私に暗殺の仕事が回ってくることは稀で、書類を作ったり届けたりの毎日。誰の差し金か知らないが本業が事務官になりつつある。



今日の任務は重要な書類をヴァリアーに届けること。欠伸が出るような任務に倦怠感を感じながら渋々ネクタイを締め直して椅子に掛けてあったスーツの上着を羽織った。


どんよりした重たい雲からしとしとと雨が降っていた。濡れないように気を付けながら車の後部座席に乗り込む。車には運転手と助手席に男が1人。前と後ろにも同様の車が付いている。厳重な警護のもと車はヴァリアー本部へ向かった。


突然前を走る車が爆発した。
屋根やガラスが吹き飛んで大きな炎を上げ停車した。急な事で私の乗る車は前の爆発した車に追突。道の両脇の林から大勢の敵が銃を手に車へ向かってくる。想定以上の敵の数に唖然とした。後方の車に乗っていた味方が私の車を囲み応戦していたが長くは持たないだろう。私は悠長に本部に電話を掛けて応援を呼んだ。


「もしもし、菊です。地点Pで敵襲、数は100程度です。応援を…は?スクアーロ?ヴァリアーの?え、もう向かってるんですか…」


車の外を見ると味方は全滅していた。敵が銃を車に向けて撃ち鍵を破壊しドアをあけた。敵の男が銃口を私に向けた。


殺らなければ殺られる
腰に隠したナイフに手を掛けたその時だった。


目の前の男の首が跳び、次々に敵がなぎ倒されていく。敵の中で暴れているのはついさっき電話で名を聞いた男、スペルビ・スクアーロだ。


圧倒的な力に敵は怯みあっという間に片付いた。


銀色の美しい髪をなびかせて車に近づき歩いてくる。途中私の味方達の死体の山に足を止めて顔を少ししかめて再び歩きだした。私の車の前で中を覗きこむように体を屈めスペルビ・スクアーロは私の安否を確認しにきた。


「うぉぉぉい、生きてるかぁ?」


間近で見たスクアーロの顔はとても綺麗だった。荒くれ者の集団と名高いヴァリアーの幹部だからもっと恐ろしい男かと思っていたが、最初の一声は私を気遣うような柔らかい声だった。


(噂と大分違うな…)


それが私の最初の印象。
スクアーロの美しさに暫く見とれてしまった。


「だ、大丈夫かぁ…?」


「え、あっ…ごめんなさい!
大丈夫です…」

「お前本部の事務官だろぉ。
…たくっ、こんな危険な任務に戦えねぇ事務官寄越すなんて本部の連中はなに考えてんだぁ」


「ごめんなさい…」



「お前は被害者だろぉ…
俺はスクアーロだ、お前は?」


「私は菊といいます。
助けて頂いてありがとうございました。…ところで何故私が事務官だと?」


「たまに本部の廊下で擦れ違ったからなぁ、ジャッポーネは目立つ」


地味に振る舞ってきたのに、事務官にまで注意しているのは流石だなと思った。


「菊か、次からこういう任務に就かされねぇように言っておくからなぁ」


「え、あっ…ありがとうございます」


何故こんなに優しくするのだろう。イメージとの差が気持ち悪いくらいに激しすぎて戸惑う。




雨は止み、本部からの人員が漸く到着。死んだ味方の死体をほんの少しの申し訳なさを感じながら一瞥しその場を去った。私はあくまで隠し刀、ギリギリまでは力は使ってはならない。


車を乗り換えスクアーロの護衛付きでヴァリアー本部へ書類を無事届け任務は完了した。
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