□標的3 ハニートラップ
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深夜1時。
森に囲まれた屋敷は静まり返っていて風が窓を叩く音だけが時折響いた。


暗い部屋の中ではスクアーロはベッドの上で仰向けになりながら、なかなか寝付けない自分に苛立ちを感じていた。





時雨の事を考えていた。
あの目を思い出すと眠れない。
正直に、最初にあの目を見た時から自分も既に囚われていた。
すっかり時雨に絆されてしまった軟弱な自分に腹が立つ。



コツン、コツン、と静かに廊下に足音が響く。ハイヒールだろうか、気配は消しているがこの時間に部屋を出るのは時雨だと知っている。仕事だろうか、自分には関係がないと普段は放っておいた。しかし今日は妙に気になった、きっと自分が時雨のことを考えていたからかもしれない。プライベートに踏み込むべきではないと理性が止めにかかるが、好奇心が勝り上着と剣、車のキーを手に取ると、時雨の気配が遠のいたのを確認して部屋を出た。








時雨はヴァリアーの敷地を抜けると徒歩で森の中へと歩いて行く。遠目勝ちにしか見えないが、いつもと服装が違う。ハイヒールに身体のラインを魅せた黒のタイトなドレス、ハンドバッグ、そして煌びやかな装飾品。あの時雨が着るとも思えない華美で露出の多いものだった。もちろんマスクもしていない。



森を少し入ったところで、同じチェルベッロの人間だろうか、時雨と同じ姿形の人間が車で時雨を迎えに来ていた。車に乗り込んだところでスクアーロも自分の車に乗り込み後を追った。幸い今日は月も新月、ゆっくりと車を走らせれば気付かれないだろう。






時雨の乗った車は街へ出ると時雨を降ろして何処かへ走り去って行った。スクアーロも路地へ車を駐車させて時雨の後を追う。街並みが怪しくなってきた所で時雨のやらんとするところは何となく解った。この辺で引き返そうとも考えたがここまで来たのだから最後まで見届けようと決意する。




時雨はレンガ作りの建物の路地裏へ入ると立ち止まって壁に寄り掛かり時計を確認しながら誰かを待っている様子だ。



暫くすると通りに黒塗りの車が一台止まって一人の男が降りてきた。中年のその男には見覚えがある。確かこの男はボンゴレの傘下にあるヴィクターファミリーの幹部の一人、確か名前はディックと言ったはずだ。


ディックは時雨を見つけると何か言葉を交わし、壁に肘を着くと時雨に覆い被さるような形で唇を重ねた。時雨もディックの首に腕を回して耳元で何か囁いたかと思うと、二人はネオンの裏町へと消えて行った。




スクアーロは時雨を追って来たことを後悔した。考えれば簡単にわかることだ、時雨はチェルベッロ機関の人間。諜報や暗殺が主な仕事なら女を使わないで何とするか。それでもあの堅物で機械みたいな女が体を使ってハニートラップを仕掛けているなんて思いもよらなかった。いや、考えたく無かっただけかもしれない。



スクアーロは車へ戻ると街の入口付近へ車を止めて時雨を待つことにした。この微妙な気持ちのままおめおめと帰る訳にはいかない。


秋とは言え夜は冷える。
スクアーロはエンジンもかけずにシートを少し倒して冷たい車内で静かに待った。
今頃時雨は。
奴らの行為が終わるのを待っていると考えると何とも気分が悪い。自分は何がしたいのか、スクアーロ自身にも分からなくなっていた。




こんなにも時間を長く感じたのは久しぶりだ。あの時の、ゆりかご後の、ザンザスを待った8年に比べればなんでもないけれど。
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