ちいさなゆめ

□儚き花のように
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窓から朝日が入り込んでいる。
隣に寝ているのはとても大事で初めて守ってやろうと決めた女。
こんな感情は生まれて初めてなのだ。お互い裸で抱き合っている形である。彼女の頭を愛おしそうに何度も撫でる。


「ねぇ、リヴァイ。」


赤い弾力のある綺麗な唇が俺に問う。その目はどこか寂しそうで壊れてしまいそうな目だ。


「なんだ。」
「私がもし、巨人に食べられたらどうする?」


その質問はとてつもなくくだらなくて不愉快で、しかし俺の胸をぎゅっと締め付ける質問であった。


「くだらねぇ質問だな。」
「もぉー。明日はどきどきの壁外調査なんだからねっ。
しかも私の陣形は右翼索敵だし。
1番巨人に出くわして危ないとこなんだから。」


と、頬を膨らます。その姿がなんだか可愛らしくてそのよく喋る唇に自分の唇を重ねた。


「お前は不死身だからな、簡単に死なねえだろうが。」
「まっ!私だって人間ですーっ。不死身じゃありませんーっ。」
「そうだったか?」


悪態を突くとぷいっと自分に背中を向けるナナシ。
その背中をぎゅっと抱きしめる。
抱きしめるととても暖かかった。ちゃんと生きてる鼓動も聞こえた。


「ナナシ、死ぬなよ。」


俺はナナシに言う。
するとナナシは俺の腕を掴み、きゅっと抱きしめる。まるでそれに応えるかのようだ。







翌日の壁外調査。


「口頭伝達です!!」


俺らのいる五列中央に伝達係がきた。しかし、次の言葉に己の全てが凍りついた。


「右翼索敵、壊滅的打撃!!
右翼索敵一部機能せず!!
以上の伝達を左に回して下さい!!」



(リヴァイ……)




彼女の笑顔が脳裏によぎった。
右翼索敵?あいつがいる陣形じゃねぇか。


「……聞いたかペトラ、行け。」
「はい!」

「リヴァイ兵長…」


班員の視線が一斉に俺に向く。もちろん俺とナナシの関係を知っている。だが、ここで引き返すわけには行かないんだ。


「何をしてる。前を向け、進め。」


班員に言う。
いや、これは班員に言ってるのか?それとも、、
そう考えてると舌打ちしか出てこなかった。







その後死闘の末、一時女型巨人を捕らえるが逃してしまい。俺も左脚を少しやられちまったようだ。班員も…

そして、次に運ばれた死体は見覚えのある姿だった。
紛れもなく、ナナシ。
捕食されることなく体が割と綺麗だ。踏まれたのか少し腕が変な方向に向いてるようだ。
俺は無言でナナシに近づいた。


「待て、この死体にようがある。」


運ぶ兵士を止め、地面に寝かせてもらう。手を握ると、死後硬直なのか、柔らかかったその手は硬くなっている。そして冷たい。
紛れもなく遺体ということを物語る。


『リヴァイー!』


頭の中でナナシの声がした。とても可愛らしく、美しい声が聞こえた気がする。
変わり果てた目の前にいる彼女は動けなく、口も開けない。


「ナナシよ、ペトラ、オルオ、グンタ、エルドも逝った。そっちでそいつらをよろしくな、あいつらが調子乗ったらしっかり叱ってくれ。」


俺はナナシの頬を撫でる。そう、いつもみたいに。


「俺はまだそっちに逝けねえ。寂しいだろうがしばらく待ってろ。」


ふわりと優しい風が吹き始めた。まるでナナシが聞いてるような感じだ。らしくもない事を考えてしまう。


「ナナシよ、これからも愛してる。」


すると風が勢いよく吹く。あぁ、やっぱり聞いてたんじゃねえか。普段言わない様なことを待ってましたかと言わんばかりによ。
目を開いたままのナナシの遺体の目にそっと手を当てて目を閉ざしてやる。
そうすると、まるでいつもの寝顔のようだった。


「ナナシ、お前はずっと俺のモノだ。
そして俺はずっとお前のモノだ。」


そう言い残し、兵士にナナシの遺体を運ばせた。こんなことでつまずいてはならないんだ。俺は。数々の兵士と約束をした、必ず巨人を絶滅させると。

だから、ナナシよ。
どうか見ていてくれ。






fin...











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