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□待つ白澤
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「今日、以前頼んでおいた薬取りにいきます。薬できてない訳ないですよね?」

僕の返事なんか待たず電話がぶつっと切れた。
最後に妙な威圧をかけられたが、もちろんしっかり者で有名な僕のことだから

すっかり薬の用意を忘れていた。


「うぇぇ…今日っていつ?何時?」

 
今日は衆合に行って女の子と遊ぶ予定だったんだけど、薬作りに時間が無くなった。
かといって作らないでおいたら、あの鬼には「てへっ」じゃ済まない。

しかも何時に来るんだよ!
何このジャパニーズホラーみたいなハラハラ感。


試しに鬼灯の携帯に電話してみたが、思いっきりマナーモードだ。
恐らく仕事中なんだろう。


とにかく早く作ってしまって、来て渡して遊びに行くのが僕の目標。


黙々と作ったら薬が出来上がってしまった。
もう日は暮れてしまったが奴はまだ来ない。


もういい時間だし、桃タローに頼んで遊びに行ってしまおうか?


そう思ったけれど、ここまで来たら意地でも待ってやる気になった。
どうせもうすぐ来るだろう。いつもなら。



待ってからどれぐらい経っただろう。
店のドアを叩く音がした。

待ってから2時間過ぎようとしていた。
神獣をここまで待たせるとはいい度胸だ鬼!


やっと来たと思い、少しワクワクしてドアを開けた。


「来る時間くらい言ってくんない!?僕それじゃ…」


ドアの前には女の子が立っていた。


「あ!ご、ごめんね!てっきり依頼人が来たと思って…」

「そうなんだ、吃驚しちゃった。
 もうこんな時間だけど開いてるかな?」

「もちろん!女の子はいつでも歓迎だよ!」

「じゃあお薬頂いてもいいかしら…それと、もし暇でしたら遊びに行きませんか…?」


女の子はいやらしく谷間を強調させて
上目使いで僕を見た。

けれど僕はそれに対して何の興味もしめさなかった。おかしい。
いつもなら、近藤さんの用意をはじめたい気持ちでいっぱいなのに。


ああ、そうか。

僕には待つ人がいるから、しっかり者の僕は今やるべきことを把握しているんだ。


「謝謝…その誘いはとっても嬉しいんだけど、僕依頼人が来るまでここで待っとかないといけなくてさ」

「あら、残念だわ」


女の子は、またね、と言ってドアを閉めた。


いつもなら、こんな時間より早く奴は来るのに。
いつもなら、桃タローに任せて女の子の元へ行くのに。



「いつ来るんだよ…鬼…」


あれこれ考えている内に、眠りに入ってしまった。



肌寒くなって目を開けると、変わらぬ店の風景だった。

時計をみるともう12時を過ぎていた。



何で律儀にあいつを待っていたのか腹立たしく思ってきた。


「もおおおーーーー!!」

「発情期ですか、神獣さん」


突然聞きなれたバリトンボイスが聞こえた。
ドアの方に背の高い男が立っている。


「ほ…鬼灯…」

「何ですかその気の抜けた声は」

「遅いよ!今日取りにくるって言ったくせにもう明日じゃん!!」

「遅くなったことは流石に謝りますよ。ごぺんなさぁい」

「それ絶対ふざけてるよね!?」

「うるさい、夜中ですよ」

ドゴッ


脇腹を思いっきり殴られ、床に寝そべる。


「こんな時間になるんだったら女の子と遊んどけばよかった。昼も夜もさ…」

地面に顔を埋めながらブツブツ話していると、鬼は僕の顔の近くでしゃがみ込んだ。

また殴られると思って体がビクッとした。


「私が来るまでずっと待ってたんですか?」

「な…そうだけど…」

「女性のお誘いも断って?」

「…うん」

「桃太郎さんにも頼まず?」

「…」


鬼が黙り込んだ。


「も、もういいよ!早く薬取って帰れよ!」


顔を上げると、思いのほか鬼灯の顔が近くにあった。

お互い驚いた表情をした後、また殴られると思って態勢を構えようとした瞬間

鬼灯が僕を抱きしめた



僕もあいつも何も喋らなかったけど、
ホッとして、涙が出そうになった。

帰る親を待つ子供のように、僕は鬼灯を待っていた。
もっと言えば、夫に手作りの温かい料理を早く食べてもらいたい妻のように。


気付けばそのままの態勢で鬼灯は寝てしまっていた。
どうやら相当仕事が厳しかったようだ。



明日起きたら疲れのとれる薬をやろう。

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