小話集
□修羅の叙情詩
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「そろそろいいか?一人で集中したいんだが」
これ以上はきっと良くない。深入りするのは止めた方がいい様な気がする。
何に?誰に?
「まあちょっと待てって。まだ話終わってないから」
「じゃあ早目に終わらせてくれ」
「俺はもっと話がしたいんだけどなあ」
「アンタの話に付き合ってくれる人間なら他に幾らでもいるだろう」
「俺はお前と話がしたいんだよ。他の誰かとじゃなくて」
黒い瞳が馬超の目を覗き込む様にじっと見ている。
「…俺、と」
「おう。ま、とりあえず今は名前で呼んでみてくれねぇかな、ってのを言いたかったんだけど。俺にとっては名前以外で呼ばれる方が失礼なんだよ」
「そう、言われても」
「まあ徐々にでいいさ」
そう言って踵を返した劉備は思い出した様に「ああ、それと」と振り返った。
「俺は『お前だから』ここに呼んだんだし『お前だから』必要なんだ。それ忘れんなよ」
突然理解した。落ち着かなかったその訳。
彼にはもう既に沢山の大切なものがあって。
だったら自分は必要無いのではないか。自分がここに居る意味は無いのではないか。
そう思っていたから無意識に一線を引いていたのだろう。この国にも、彼にも。
だけど彼は。
「…劉備殿!」
余程驚いたのか、勢い良く振り向いた劉備は髪が顔に当たって「痛っ」と小さく零した。
その姿がどうしようもなく、
(ああ、錦馬超ともあろう者が何たる様だ)
…愛おしい。
「暇なら遠回りにでも行かないか」
「ん?お、おう、行こうか」
「折角だから二人乗りでもどうだ、劉備殿」
「…折角だからの意味が分かんねぇ。つうかお前人が変わり過ぎだろ」
「劉備殿の所為だろう」
「は?俺の所為かよ。何で?」
「鋭い癖に変な所は鈍いんだな」
「…馬鹿にされてる事ぐらいは分かるぞ」
「まさか。褒めてんだよ。さあ行くか、時間が惜しい」
暗闇の中、手を伸ばせと囁かれた。
伸ばした先に在るものは、
まだ分からない。
終
剛槍大徳なんてこれまたどマイナーな…。まあこれ私的には剛槍→大徳なんですがね。
大徳殿は天然なタラシだと思うんですが如何でしょう(聞くな)