小話集

□修羅の叙情詩
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やさしいキスをして









するり、と指の間を黒髪がすり抜けてゆく。
それが何だか少し楽しくて何度も何度も長い髪に指を絡ませた。

「…ん…」

飽きずにそれを繰り返していると眠る貴方が小さく身じろぎした。目を覚ますかと思ったが、貴方の瞳は閉じた侭。
ゆっくりと髪を撫でながらその黒髪に口付けを落とす。少し下がって、その額に。瞼に。頬に。

そして、唇に。

軽く触れるだけの口付けから、徐々に深く、激しく。
薄く開いた唇から舌を忍ばせて彼の舌を絡め取ると、肩に手が置かれ、引き剥がされた。

「何だ、起きたのか」
「あんな事されて起きない奴があるか」
「酷く寝起きの悪い事で有名な貴方なら分からないぞ」
「煩い。大体お前はこんな夜中に人の部屋で何やってんだ」
「暇だったから」
「はあ?」
「眠れなくて暇だったから貴方の寝顔でも見ていようかと」
「なら大人しく見てろよ。変な事するな」
「貴方の寝顔が可愛過ぎて、つい」
「…ああそう」

脱力して寝台に沈み込む貴方の隣で横になろうとすると、貴方は僅かに身体をずらして場所を空けてくれた。
背を向ける貴方のうなじに唇を寄せる。すると、やや怒った様な声が返ってきた。

「もう寝ろよ」
「…眠りたくないんだ」
「何で」
「明日が来るのが嫌だから」
「…」

貴方は何も言わない。けれど、話を聞くつもりはある様だった。

「明日もこうやって貴方が隣に居るとは限らないだろう?」
「だから眠りたくないのか」
「ああ」

貴方は身体を反転させて俺と向かい合った。
貴方の眼がじっと俺を見ている。

「お前がそんな事を怖がってるとは思わなかった」
「意外と臆病な男なんだよ」
「主の部屋には平気で入ってくる癖にか」
「何時でも来ていいと許可を貰ったからな」
「…そんな許可した覚え無いんだけどなぁ」

ふぅ。
軽く溜息をついて貴方はこつん、と自分の額を俺の額にぶつけてきた。




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