小話集
□過去拍手御礼文 1
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ほんわか湯気の立つお茶に真っ白な砂糖が溶けてゆく。
さらさらと砂糖を自分の湯呑みに入れ続ける孫策に、周瑜は眉間に皺を寄せた。
「そんなに入れないと飲めないのなら飲まなければいいだろう」
「飲めない訳じゃねぇもん」
「仮にも一国の主が「もん」とか言うな」
「うるせ。入れた方が美味いんだよ」
そう言ってお茶を啜る孫策から周瑜は目を逸らした。甘い物が得意でない周瑜にとって、孫策の飲むそれは見ているだけで気分が悪くなる。
「しかしだな…そんなに入れたら茶本来の味が分からなくなるだろう」
「そんな事ねぇって。周瑜も飲んでみろよ」
差し出された湯呑みを周瑜は全力で押し返した。その際に僅か匂った香りだけで吐き気が催される。
周瑜は、自分の湯呑みを孫策に差し出した。
「君こそ、これを飲んでこの茶本来の香りを楽しんだらどうだ」
「嫌だ」
「少しでいいから」
「少しでも嫌だ」
「あのな…子供か君は」
遥々遠方から取り寄せたお茶の味をどうしても味わって欲しい周瑜は考えを巡らす。
(軍師をなめるなよ…)
周瑜は孫策の腕を掴んで引き寄せた。
「へっ?」
そして、孫策に驚く間も与えず口付けた。
薄く開いた孫策の口に、自分の口の中の茶を移す。
深く口付けてくるのにどうしようもなくて孫策は注ぎ込まれた液体を飲み込んだ。
漸く放され、必死に酸素を取り込みながら涙目で孫策は周瑜を睨む。
「美味かっただろう?」
周瑜が聞くと、孫策は憮然とした表情で答えた。
「…甘かった」
「…は?」
予想外な返事に周瑜は戸惑う。
「お前も砂糖入れたんだろ?」
入れる訳がない。だけど孫策は「絶対入ってた」と言い張る。
「…成る程」
「成る程って、何がだよ」
「つまり、君が甘いと感じたのは茶ではなくて…」
周瑜の次の言葉に孫策は絶句し、次に耳まで赤くなった。
「たまには甘い物もいいかもな」
「…お前って…本当恥ずかしい奴だな…」
溜息をつく孫策に、周瑜は笑ってもう一度口付けた。
砂糖よりもずっとずっと甘いのは、
愛しい貴方との、キス。