小話集
□過去拍手御礼文 1
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近頃、何かが足りない。そんな気がする。
学校に行って、クラスメイトと進路について話をしたり、学校が終われば塾へ行ったり。
部活動はしていないけれど充分充実した毎日だし、スリルは無いけれど退屈もしない。楽しい事ばかりじゃないけれど、それなりに幸せだと言える毎日。
その筈なのに、何かが足りない様な気がする。でも、何が足りないのかは分からない。
「幸せ…とは一体、何だろう」
独り言のつもりが、思ったより大きな声になっていたらしい。同じ部屋に居た周瑜の姉が「何か言った?」と首を傾げた。
「いや、何も。ちょっと出掛けて来る」
「何処へ?」
「図書館」
姉には図書館へ行くと言ったものの、何となくそんな気になれなかった周瑜はただぶらぶらと夕暮れの街を歩いていた。
一体、何が足りないのだろう?
どうして突然こんな事を考え出したのだろう?
そんな事を考えながら歩いていた周瑜はある人物の姿を見つけた。その人はただのクラスメイトというには周瑜の中で大き過ぎる存在で。
「周瑜!偶然だな」
「…孫策」
夕焼けの光みたいに暖かい笑顔だと思った。
不意に、軽くなった体。
「…簡単な事だったんだな」
「周瑜?」
不思議そうに自分を見る君。
こんなに、簡単な事だった。
「孫策。もう一度、笑ってくれないか」
「い、いきなり何だよ?」
「別にいいだろう?減るものじゃないし」
「いやそういう問題じゃねぇし。可笑しくもないのに笑えないって」
変な奴。そう言いながらも、君はまた笑った。
やっぱりそうだ。
足りなかったのは。足りなかったものは。
「で、周瑜は何してんの?」
「ん?いや、特に何も」
「ふ〜ん?…ま、たまにはそんな日もいいかもな」
君と並んで夕日を見る。このまま、月が出るまで一緒に居れたらいいな、なんて思う。
そう。こんなに簡単な事。
足りないものは、こんな所にあった。
「……だな」
「周瑜?何か言ったか?」
「何でも無いよ、孫策」
君に会えて、思わず零れた言葉。
幸せはこんなとこにある。