小話集
□過去拍手御礼文 1
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しとしと、という表現がこれ以上無い程当て嵌まる、静かな雨の夜だった。
雨に濡れる窓を眺めていた孫策は、溜息と共にぼやく。
「雪にならねぇかな」
「それは無理だろう。こう暖かくてはな」
孫策の隣で書簡を読んでいた周瑜は苦笑しながらそう言った。
「雨は嫌いだ。雪がいい」
まるで子供の様に頬を膨らます孫策。微笑ましいな、と周瑜は思う。
「伯符。一ついい事を教えてやろうか」
言うと「何、何?」と身を乗り出してくる。少し小首を傾げる仕草が可愛いな−、堪らないな−と感じてしまう辺り自分はもう末期なのだろうと思う。後悔はしていないけれど。
「雲の上ならば雨ではなく必ず雪が降るのだそうだ」
「こんなあったかい夜でもか?」
「こんな暖かい夜でもだ」
まあつまり雲の上は常に寒い訳であって、だから雨は常に雪になってしまうのであって、それ故地上が暖かかろうが寒かろうがそんな事は全く関係無い訳であるが、周瑜は何も言わなかった。
「そっか…いつも雪が降ってる場所か…」
別に「いつも」降っている訳でもないのだが、やはり周瑜は黙っていた。だって嬉しそうな孫策がこれまた可愛いし。
「よし決めた!公瑾、天下統一したらさ、一緒にいつも雪の降る場所で暮らそうぜ」
「…それは天下を統一したら一緒に死のうと言っているのか?」
「違う違う。公瑾お前、俺がそんな事を言う男だと思うか?」
「それは、思わないが…」
「そうじゃなくてさ、そういう場所を探しに行こうって言ってんだよ。雲の上にはあるんだろ?だったら地上の何処かにもあるって」
だから、な、一緒に行こうぜ?なんて君が言うものだから。
「悪くないな」
笑ってそう答えた。