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□依雫様より。
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 大型連休の最中の学校に、チャイムなんて鳴る筈が無い。雲雀がいつも以上に時間を忘れ、風紀の仕事に没頭して居るのは想像に難く無い。
 ダイニングテーブルの上には、雲雀の携帯電話がこれ見よがしに置かれて居る。わざわざ目に付く場所に放り出された其れが、雲雀の苛立ちを代弁して居る様だった。
 きっともう、夕食の時刻にすら戻らないのだろう。草壁にも今日は休むと申し伝えたと言って居たのだから、雲雀に時刻を教える者は無い筈だ。そうなると酷い時は、雲雀の帰宅は日付を越えて仕舞う。

「ふう…」

 一人リビングのソファに座った骸は、小さく溜息を吐いた。
 もう、日は落ちて仕舞った。つい昨日雲雀との帰り道で、日が長くなったと話したばかりだと云うのに。窓の外に広がる空は、既に夕闇を湛えて居る。
 ソファに脱ぎ捨てられていた部屋着も、とっくに洗濯して乾燥機の中。後は畳んで脱衣所に置いておくだけ。それだけなのに、それすらもう遣りたくも無い。
 雲雀の好物の、ハンバーグの下拵えだって終わって居る。けれどもう、成形した状態で冷凍して置いた方が良いのかも知れない。
 ぼんやりと視線を彷徨わせた先は、リビングのローテーブルの上。雲雀の誕生日に渡そうと、骸が用意したプレゼントだった。

「もう、仕方無いですね…」

 添えられたカードに、骸は一文を書き足し、プレゼントと共にダイニングテーブルの上へと其れを移動した。
 無駄な希望は持たない。矢張り其れが自分に一番似合う生き方だと、そう思った。



 一方、応接室。
 大方整理を終えた書類の角を、雲雀が机に打ち付けて揃える音が、草壁の手を止めさせた。

「ああ、もうこんな時間ですね…」

 壁に据え付けられた時計を見た草壁が、雲雀に声を掛ける。
 時計の指し示す時刻は、20時30分。普段ならば雲雀は既に帰宅して居て、骸と並んでリビングのソファにでも座って居る時間だ。

「本当に宜しいんですか、委員長」

 草壁がもう一度、気遣わしげな視線を雲雀に送った。

「何が」

「…お帰りに、成らなくて」

 一体何だと言うのだ、今日の草壁は。否、骸だって可笑しい。今日は家に居ろだの、早く帰れだの。

「何で君たちはそんな事ばっかり…」

「自分の口からは、先に申し上げる事は致しません。骸さんに悪いですから」

 楽しみに、して居られたんですよ。其処まで言われても、雲雀には話が見えない。何か重要な事なのだろうが?
 そう言えば、今日は休んで上げると言った時の骸は、本当に嬉しそうだった。
 ああ、何も彼もがもやもやする。

「帰るよ…」

 草壁の言う事に従った訳では無い。只、仕事が終わっただけだ。
 そう言い聞かせて雲雀は、重い腰を上げた。
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