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□依雫様より。
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こどもの日、当日。
矢張り朝から余り、雲雀の機嫌は宜しくは無かった。
事の起こりは金曜の夜だ。
明日からは連休。目障りな草食動物の群れも無く、一人で落ち着いて風紀の仕事に掛かれる。そんな事を思って夕食の卓に着いたら、骸が今日だけは休んで呉れと言う。
渋々と云った風情を隠しもせずに了承すれば、骸は酷く嬉しそうな顔をした。
こんな顔が見られるのならば、一日位は構わないか。そう納得して仕舞った雲雀は、随分と骸に絆されて仕舞って居たのだろう。
その骸は、先刻出掛けて行った。
─すぐに戻ります。10分は掛かりませんから!
そう言って慌ただしく掛け出して行った骸に、雲雀は声を掛ける暇も無かった。
雲雀は今日家に居る為に、結構な量の仕事を昨日の内に終わらせた。残った分は、明日片付けようと応接室に置いて来た。
それなのに、こちらの気も知らず出掛けて行った骸。何だというのだ、一体。
苛立ちに任せて視線を彷徨わせた雲雀の目に映ったのは、ハンガーに掛けられた自分の制服。
「だったら僕も、出掛けちゃっても良いよね…」
己をそう正当化した雲雀は、さっさと制服に手を通した。
それから、数分後。息を切らせて帰って来た骸の目に映ったのは、空っぽの室内と、雲雀の制服が掛かっていた筈のハンガー。
それから、ソファに脱ぎ捨てられた、雲雀の部屋着。
「やっぱり昨日のうちに受け取りに行くべきでしたかねえ…」
雲雀君を驚かせたかっただけなのですが。一人ごちて、骸は少しだけ、笑った。
雲雀が登校すると、既に草壁が来て書類の整理をして居た。当然だろう、雲雀の方は休む気で居たから、10時近くまで寝て居たのだ。─骸が隣で、がさがさと起き出すまで。
「ご苦労様だね」
苛立ちを振り払う様に草壁に声を掛けると、彼は不思議そうに雲雀を見る。
普段ならば声を掛けるより先に挨拶をして来る男なのに、珍しい事も有るものだ。まあ、雲雀が今日は来ないと思い込んで居たのだろうから、仕方無い。もう、一々怒るのも面倒臭い気分だ。
そう思って雲雀が執務用の机に近寄って行くと、草壁が遠慮がちに声を掛けて来た。
「委員長…今日は、お休みの筈では…?」
「うん、でも骸も出掛けちゃったから」
「は…?」
「直ぐ戻るとか何とか言ってたけど、僕には関係無い。仕事が溜まってるんだから」
「…本当に、直ぐに戻って居られると思いますが」
「──君にも関係無い事だよ、草壁」
未だ納得が行かない、とでも言いたげな草壁にきつい一瞥を呉れて、雲雀は書類の束に目を通し始めた。頭に血が上った状態の雲雀に、これ以上何を言っても無駄。其れを知る草壁も、雲雀に倣う。
けれど何か納得が行かないらしい其の表情に苛立ちを覚えた雲雀は、極力一人きりの閉鎖的な空間を創り上げ、仕事に没頭する事に決めた。