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□依雫様より。
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雲雀誕生日小説・雲骸







 平和だ、と、骸は思う。
 明日からは、ゴールデンウィークとか呼ばれる一週間近くに渡る連休が始まる。その中の一日、連休も終盤に差し掛かった“こどもの日”が、雲雀の誕生日だ。
 実のところ、安寧の中に自分が在る現状だけでも、骸には未だ信じ難い。
 其れなのに今年は、誕生日祝いなどと云う事柄に心躍らせる…。
 並盛でも人気だと云うケーキ専門店は、休前日の夕刻である所為か、女子学生や近所の主婦で賑わって居た。黒曜の制服を派手に着こなした骸は、当然その中では浮いて居る。

「では、これでお願いしますね」

 あの地獄から抜け出して得た、安寧の中の祝い事。プレゼントなら疾うに用意した。雲雀を付き合わせてよく立ち寄るシルバーアクセサリー店の店主に、若いねとか何とかからかわれ乍ら。
 ケーキ屋なんかには、初めて入った。誕生日ケーキの予約なんて、それこそ生まれて初めてだ。
 店員に惜しげもなく笑顔を振り撒いて、骸はケーキの予約票を手に店を出た。
 後は、その日だけは家に居て欲しいと雲雀に頼み込む、だけ。一番の難関は其処であろうと予想しつつ、骸は意気揚々と帰途に就いた。



今日も雲雀の帰宅は遅かった。勿論、中学生にしては、と云う程度だが。
 風呂を沸かし、夕食の下拵えを終えた辺りで骸の携帯が鳴る。着信名は勿論、雲雀。

 今から帰る、とだけ告げて切れた電話に、骸は笑みを漏らして雲雀を迎える準備を始めた。
 応接室で待ち合わせない日、骸はいつもこうして雲雀の帰りを待つ。ほんの数ヶ月前に始まった生活なのに、家事の時間配分も随分手慣れて来たと思う。
 程なくして、玄関のドアを開く音がした。出迎える事はしない。雲雀は余り玄関先での遣り取りを好まないし、骸にだってやる事が有る。
 それに、ほら。抑える事もしない雲雀の足音は直ぐに、此方に向かって来るのだから。


「ただいま」

 ダイニングに入って来た雲雀は、準備も終盤に差し掛かった夕食に、当然の様に目を細める。どうやら機嫌は悪く無い。大方今日も、美味そうな群れでも見付けて咬み殺して来たのだろう。
 
「お帰りなさい。今日の狩りも楽しかった様ですね」

「うん、まぁね」

 さっさと席に着く雲雀は、もしかしたら上機嫌と言っても差し支えが無いのかも知れない。頼むならば、今夜が良いだろう。
 きれいに三菜一汁を並べたダイニングテーブルで、雲雀の向かい側に着いた骸が、恐る恐る切り出した。
 今週の月曜は、学校には行かないで呉れませんか、と。
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