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□邪魔をするな
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「5万」
東の空が薄暗くなって来た頃、ざわざわと騒がしい空間にぴんと張った声が響いた。
年に一度、並盛神社で行われる夏祭り。
沢山の的屋が並ぶ石畳に、夏でありながら学ランを着用した黒い集団がいる。
その集団の先頭には、学ランを肩から羽織った雲雀くんと、集団の中にいて独りだけ違う制服を纏った僕。
「ひっ、雲雀さん!い、今出します!」
「早くね。君1人に長く時間を取れる程暇じゃ無いんだ」
「クフ、相変わらず鈍臭い」
「うっさい骸!」
チョコバナナの的屋で店番をしていた沢田綱吉から所場代として5万を回収して、次の的屋へ。
祭りが始まってからずっとそんなのばかりで、正直そろそろ飽きて来た。
後ろに控える風紀委員達は毎年こうして雲雀くんに付いているのだろうが、この暑い中学ラン着用を義務付けられた上にひたすら単純業務、よく耐えられるものだ。
「雲雀くん」
「なに」
「暇です」
「そう」
「暑く無いですか」
「別に」
「つまらない」
「黙って」
「構って下さい」
「忙しいんだよ」
「雲雀くん、」
「煩い骸。僕の邪魔をするな」
食い下がってもこの状態。
折角祭りに来たのだ、
見慣れない物が沢山あるし、どうせなら堪能したいのに。
「そんなに暇なら、勝手に遊んで来れば良いでしょ」
「!良いんですか?」
「構わないよ。君が此処に居てもやる事は無いから」
「有難うございます!」
「でも、良いかい、くれぐれも僕の仕事の邪魔をしないで。それだけは約束して」
「解っていますよ。君の仕事を増やす様な真似を、僕がする筈が無いでしょう」
あまりにつまらなそうな顔をしていたからか、雲雀くんが呆れた表情で別行動を許してくれた。
念を押された“邪魔をするな”、騒ぎを起こすな、という事でしょう。
沢田綱吉一行じゃあるまいし、この僕が騒ぎを起こすなんて有り得ない。
「草壁」
「へい。骸さん、これを」
「…?何です?」
「お金。君カードしか持って無いでしょ」
「あぁ、そうでした。有難うございます」
草壁くんから渡された何枚かのお札をポケットに仕舞って、雲雀くんに背を向けた。
さて、日本のお祭りとはどんなものか、存分に堪能しよう。
この石畳の両側にずらりと並ぶ的屋からはやけに良い匂いがして、さっきから空腹を刺激されっぱなしだ。
「先ずは…さっきボンゴレが売っていたチョコバナナから行きますか。
ボンゴレの屋台は何処ら辺でしたっっけ…」
ベルギー産の生チョコを直前に塗るとか言っていたし、ディスプレイされているものを見てもなかなか美味そうだった。
日本のお祭り第一歩として不足は無い。
雲雀くんと歩いて来た道を人混みに揉まれながら遡って行くと、先程見たチョコバナナの的屋が見えた。
元気良く跳ねたふわふわの茶髪も確認出来る。
店の周りには沢山の人が集まって、なかなか盛況だ。
だが。
「……?」
様子がおかしい。
売上好調であろう状況なのに、沢田綱吉は青ざめている。
接客している沢田綱吉の後ろでは、山本武と獄寺隼人が何やら言い争っていた。
明らかに、異常。
「ボンゴレ」
「!骸」
「どうかしましたか?顔色が悪い」
「あ、いや…別に何でも」
「てめぇ骸!まさかてめぇの仕業じゃねーだろうな!?」
獄寺隼人は沢田綱吉と話す僕に気が付くと、いきなり胸ぐらを掴んで来た。
相変わらず気性の荒い事だ。
「何の事です?」
「な、何でも無いよ!獄寺君離して、」
「ですが10代目!こいつが雲雀の指示でやったのかも知れないんスよ!?」
「雲雀くんの指示?」
「んー、いくら何でもそこまでやらないんじゃねーかな、ヒバリも。とりあえず落ち着けって獄寺」
「…まるで状況が掴めません。兎に角先ずこの手を離して、それから説明をお願いします」
ふーふーと、猫の様に毛を逆立てて怒りを露にする獄寺隼人。
今の僕には、彼に掴み掛かられる心当たりなど無い。
沢田綱吉に宥められて漸く手を離してはくれたが、未だに僕をきつく睨んでいる。
「ごめんね、骸」
「いえ、謝るべきは君じゃありませんよ。…ねぇ、スモーキン・ボム?」
「疑われる様な生き方してっからだろ!」
「おやおや、反省の色無しですか。部下の教育も出来ないなんて、君のボスは余程無能な様だ」
「え、オレ?」
「てめぇ、10代目を貶して只で済むと思ってねぇだろーな!?」
「誰の所為で貶す羽目になりました?」
「うぐっ…そ、れは」
「まー兎に角謝っとこうぜ、な!」
「てめぇは口挟むな野球馬鹿!」
獄寺隼人に構っていては話が進まない。
そう思った僕は、獄寺隼人を無視して残りの2人に話を振った。
「雲雀くんの指示って、何ですか」
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