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□命の使い方
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殴られた頬が熱い


顔を殴られるなんて数え切れないくらい覚えがあるのに

こんなに熱いと感じたのは


はじめて で































「君さ」

「…?」

「戦闘不可避の任務ばかり受けるの、やめなよ」


廊下ですれ違っただけ。

いつもなら敵意を込めた眼を向けてすれ違うだけの相手は、今日は少し違っていた。


「…何の、事でしょう」

「誤魔化さないで、無駄だから」


敵意でいっぱいの眼はそのままなのに、僕の腕を掴む手は、真綿みたいで。

振り解こうとすれば容易に叶う、そんな微弱な力で僕を捕まえる。


「ひとつ終れば直ぐ次の、…戦闘不可避の任務を受けて此処を発つ。何年その生活をしてきたか、自分で解ってるの」

「…さぁ。僕は、意味の無い事は考えない主義なので」

「傷が癒えるより前にまた傷を作るから、君の体はボロボロだ。このままじゃ永くは保たないってあの医者が言ってるの、知らない訳じゃ無いでしょ」


互いに背を向け合ったまま、腕だけを拘束されているこの状況。

彼の表情を見る事は出来ない。

一体何を思ってこんな話を。


「…雲雀」


「君を想う人間が、此処には沢山居る。君は、自分の価値をもっと知るべきだ」


…あぁ、成る程。

そういう事、か。


「…ねぇ、雲雀」

「なに」

「命の使い方は、千差万別ですよ」


瞬間、手の力が強くなる。

ギリ、なんて音がして、ジャケット越しの指が腕に食い込むのが解る。


「僕が生きる理由は、あの子達でした。裏社会においてあまりにか弱いあの子達を守れるのは僕しかいなかった。あの子の命を創れるのは僕しか、いなかった」

「…何で」

「クフフ、そう、過去形。今のあの子達には、僕なんて要らないんです」


自分の命をちゃんと守れる強さを手にしたあの子達。

自分の命をちゃんと創れる力を手にした、あの子。

あの子達が強くなったと実感した瞬間、僕の命の意味は無くなった。


「あの子達だけじゃない、君達守護者も。この世界に必要な君達守護者が無茶な任務に赴き、万一死んでもみなさい?欠員分を補うだけでも相当な負担です。組織の発展どころの話では無くなる」

「…君なら、とでも、言いたいの」

「ええ。…守護者と同程度の力を持ち、けれど守護者ではない僕なら、いざという時の捨て駒に最適でしょう?」


こんな命、いくらでも削ってみせる。

あの子達の命を、少しでも長く延ばす事が出来るなら。

僕の手を離れた今だからこそ、僕にしか出来ない守り方が有る。


「認めると、思うの」

「?」

「そんな下らない考え、沢田が認めると思うの」

「認める事は出来なくても、許容せざるを得ないでしょう?“等しい命”なんて戯言をいつまでも言っていられる世界では無い。それは、彼自身が1番解っていると思いますが」


だからこそ、ドン・ボンゴレは僕が任務に赴くのを止めない。

君が僕の無茶に気付くのに、総括のドン・ボンゴレが気付かない筈は無いでしょう?

切り捨てるなら僕だと、そう考えているからに他ならない。


「“霧”が欲しいのなら、あの子はいつか僕よりもずっと強い術者になる。君の渇きを潤せる程にね。これ以上、僕に執着する意味は有りませんよ」


僕の庇護の手を離れたあの子達。

僕の命を捨て駒と決めたドン・ボンゴレ。

いつか僕以上の好敵手を見付ける、彼。


もう僕は、




「僕は、要らない命ですから」









ゴツ、なんて音が響いて、頬が熱を持つ。

痛いと感じる間も無く、胸ぐらを掴み上げられた。


「要らないかどうかを決めるのは、君じゃ無い」


やっと見えた君の表情。

無表情で、冷たくて、僕を道端のゴミか何かを見る様な眼で。


「…君に、君の命を決める権利は、無いよ」


離された手は、汚い物を触ったとでも言いたげに空を切る。

僕に一瞥もくれず、彼は廊下を歩き去った。


「…痛いですよ…雲雀」


そっと、殴られた頬に手を滑らせる。

そんなに強く殴られた訳では無い筈、何にも寄り掛からずしっかり立っていられるのだから。

それなのに。




「……熱…」












殴られた頬が熱い


顔を殴られるなんて数え切れないくらい覚えがあるのに

こんなに熱いと感じたのは


はじめて で

















(君の価値は僕が決める)

(君を殺すのは僕でなくてらならないから)








fin.
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