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□僕の●●さん
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「やっぱり日本人は着物だと思うんだ」

「雲雀くん、まず僕は日本人じゃありません。そしてこれは着物ではなく浴衣です」

「それでね、着物と言えばあーれーお代官様、だと思う訳」

「無視ですか」

「でもね骸、あーれーお代官様をやると回される方が目を回しちゃうじゃない?そんなのを愛しの骸にする訳にはいかないよ馬鹿」

「浴衣の帯は精々2周しかしませんから目は回りませんよ。っていうかあたかも僕がやりたがっているかの様な物言いはやめて貰えますか」

「仕方ないからあーれーお代官様は諦めて、普通にヤる事にしてあげたよ。優しい僕に感謝して」


「雲雀くん、そろそろ刺して良いですか」








◇ ◆ ◇






































「苦しくは無いですか」
「ええ、平気です。手間を掛けてすみませんね、草壁くん」

冒頭の阿呆会話を見れば解るだろうが、僕は今浴衣を着せられている。
勿論、雲雀くんではなく彼の側近の手で。
自分で着る事は出来ても人に着付けは出来ない恋人の代わりに。
本当に出来た人だ、草壁哲矢。
彼の側近でいるのが激しく勿体無い。

「しかし…君のボスはもう少しどうにかなりませんか。思い付きでものを言い過ぎです。それを周囲が許容するからどんどんつけ上がるんですよ」
「…俺に委員長は止められません。委員長の周囲に委員長を否定する人間が居れば、そいつは直ぐに粛正されますから」
「独裁政治ですね…確かに彼は少々獰猛ですが、桜の1つでも掲げてやれば無様に膝を付くのに」
「5月に桜を用意出来るのは貴方だけです」

さらさらとした生地は気持ち良く、浴衣を着る行為自体は悪くは無い。
だがその目的が目的だけに、素直に受け入れる事が難しいのは事実。
実に複雑な気分。

「終りました」
「あぁ、もうですか。流石彼の側近、手際が良い」

結んだ帯をポンと叩き、草壁くんは僕から離れた。
用意された姿見を覗けば、深い蒼の浴衣を身に纏った僕が写る。
浴衣を身に着けただけで背筋がしゃんと伸びる様な感覚がして、日本人は着物という彼の言葉は嘘では無いのだと理解した。
まぁ、僕は日本人では無いけれど。

「骸、終ったの」

見計らったかの様なタイミングで扉が開き、髪と同じ漆黒の浴衣を纏った雲雀くんが応接室に現れた。
やはり彼は美しい。
獰猛だろうと変態だろうと、彼の美しさは揺るがない。

「ワォ…良いじゃない、舐め回したい」
「第一声がそれとか、君本当に顔だけですよね綺麗なの」
「何言ってるの。いつ何時君を抱いても良い様に、全身くまなく清潔だよ。特に下半身なんかはね」
「その口が君の体で最も汚れた所ですね。自慢の下半身もろとも切り取ってやりたいです」
「切り取ったら困るのは君の癖に」

近付いて来た雲雀くんは、当初の目的を遂行すべく僕に手を伸ばす。
頬に触れた手がゆるりと顎のラインを辿り、少し開いた胸元を擽る。

「…草壁くん、退室した方が良いです多分」
「ワォ、居たの。早く消えなよ」
「…失礼します」

本当に草壁くんが居た事に気付いていなかったのか、随分驚いた様な顔をしてみせた。
僕に浴衣を着せる様命じたのは自分の癖に。
草壁くんは静かに一礼し、応接室から去った。
流石、傍若無人な主の言葉に慣れている。

「…さぁ、今度こそ2人きりだよ」
「2人きりになった途端下半身を露出するのやめて下さい。っていうか何故下着を着けていないんですか」
「和装は襦袢が下着だからね。着ないのが普通」
「へぇ、初耳です。今後和装セックスし易い様に僕に嘘教え込むつもりじゃありませんよね?」
「君の中で僕って何なの」
「恋人ですが」
「…ワォ、ときめいた。変態って言われると思った」
「自覚が有るんですね、タチ悪いです」

腰に回された手が、そのまま下って尻を撫でる。
明確な意思を持った手付き。
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