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□世界でいちばん、よりもっと。
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「動かないでね」
片手に鋏を握った彼を背後に、とりあえず頷く。
これから何をされるのか、これまでの経緯を知らない者でも、今の僕の姿を見れば直ぐに解るだろう。
新聞紙の敷かれた足元と、ケープを羽織った体。
そして鋏。
「じゃあ、切るよ」
僕はこれから髪を切られる。
発端は、僕の何気ない動きだった。
いつもの様に応接室に顔を出し、いつもの様にソファに座り、いつもの様に本を読みながら視界を遮る邪魔な前髪を耳に掛ける。
それを彼に見咎められたのが始まり。
「…君さ」
「はい」
「髪、伸びたよね」
「…そうですか?僕はそうとは、」
「伸びたよ。前は襟に掛かるかどうかってくらいだったのに、今もう肩に付きそう」
言われてみればそうかも知れない。
でも長い訳ではないし、縛る必要も今はない。
「切れば?」
「…いえ、別に長くて困りはしませんし」
「邪魔じゃないの。さっきから何度も耳に掛けてるじゃない」
「そうでしたか?自分では解りませんが」
「ほら、癖になってるんだよ。切った方が良い」
あんまり切れ切れと言うから、何となく面白くなくなって反抗した。
「別に構わないでしょう?僕はこれでも女です、髪を伸ばすのは寧ろ自然な事じゃないですか」
「いくら君が女子でも、手入れする気のない髪を伸ばす事は許さないよ。不精は嫌いなんだ」
ここからはもう本気の喧嘩。
彼は勿論譲らないし、僕も譲らなかった。
最終的には互いの獲物も飛び出し、命を掛けた戦いにまで発展して。
…結局、馬鹿らしくなった僕が折れて喧嘩は終った。
元々伸ばそうとしていた訳ではないし、これ以上彼の機嫌を損ねては危険だと思ったから。
「君の髪を他の誰かに触らせるなんて有り得ない。僕が切るよ」
学校の備品の鋏を構えた彼を必死で止め、草壁にスキ鋏を用意させて、僕は漸く安堵の溜め息を吐いた。
「どのくらいにする?」
僕の髪を撫で、一房掴んでは離し、また撫でる。
優しい手。
「どうせ君の好みに切るのでしょう?…ときに雲雀くん」
「なに」
「人の髪を切った経験は?」
「訊かないと解らないの」
「…やっぱりないんですね。失敗だけはしないで下さいよ」
「僕が器用なのは君が1番良く知ってる筈でしょ」
その優しい手が、つ、と僕の首筋を撫で上げた。
突然の行動に、息が詰まる。
「………ふぅん」
「…何ですか」
「別に。ただ、僕の器用さを忘れたなら、思い出させてあげようかなって。思い出せれば、失敗するかもなんて不安無くなるでしょ」
「は?」
「悪いのは君だよ」
可愛い反応するから。
…完全な言い掛かりだ。
反論も抵抗もする間も無く、ケープの裾から入り込んだ手が僕の胸をわし掴む。
「ひゃ…!」
「ほら、直ぐそういう声出すし。本当に君はいけない子だね」
「や、どこ触っ…」
「どこって、美味しく育った君の胸」
「馬鹿っ、そういう言い方やめて下さい!」
「恥ずかしいから?」
「…〜〜っ!!」
「ふふ、可愛い」
髪をかき上げて空いた項に、キス。
その唇にも、胸を掴んだまま遠慮なく動く手にも、いちいち反応してしまう。
「ん、ん…っやぁ…やめ、てっ…」
ケープ越しに、彼の手が胸を揉む動きが見える。
直接見えないそれが妙にいやらしく見えて、恥ずかしくて、…気持ち良くて。
「嘘ばっかり。やめたら泣いちゃう癖に」
「あぁ、ん、っ…んぅ」
「ほんと、エッチだよね。…もうこんなにぬるぬる」
「っ、!やだ、そこいやぁっ!」
長めのケープに隠れて、彼の手の動きがまるで読めない。
遮られた視界の中を移動していた手は、いきなり下着を取り払い下肢に触れて来た。
何の遠慮もなく膣内に侵入する指が、何度も何度も水音を響かせる。
「ねぇ、聞こえる?この音」
「ぁ、ぁあっ、あんっ」
「君がエッチだって証拠だよね。胸揉まれただけでこんなに濡らすんだから」
「ん、ぼく、…えっちじゃ、な…っい、ですぅ」
「そうかな?エッチじゃない娘がこんな音此処から出すの?」
「ぁあっ!や、ぁ…っ!」
ぐちゅぐちゅって濡れた音は、間違いなく僕の胎内から出てるもの。
彼は僕の中を乱暴に掻き回すけど、その都度正確に僕の悦いところを突いて来る。
そんな事を繰り返されては堪らない。
我慢など、理性など、無くしてしまう。
「…ひばりく、」
「どうしたの?」
「…も、ばかぁっ!」
僕の言いたい事なんて、絶対にお見通しの癖に。
白々しい言葉ばかり紡ぐその唇が、憎い。
あまりの悔しさに、無理矢理唇を塞いでやる。
そうすれば嬉しそうに、弧を描く。