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□極上の目覚め
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小鳥のさえずりとか、朝の陽射しとか。

如何にも爽やかで、常人にとっては目覚めにぴったりの要因かも知れない。

でも僕には、それさえ眠りを妨げる不快なものに過ぎなくて。

逆に、意地でも目覚めてやるものかと、布団を頭の上まで被ってきつく目を閉じた。

自分の体温で良い感じに暖まった布団の中は正に極楽で、外界を無理矢理遮断すれば再び眠気が襲って来る。

徐々に重くなる瞼に逆らわず、遠くなる意識を引き止めもせず、心地好い眠りにつこうとした、

のに。


「おはようございます、恭弥様。今日はとても良いお天気ですよ」


ガラガラと紅茶の乗った台車を押しながら、1人の女が寝室に入って来た。

眠りに堕ちる、正にその瞬間に。


「……むくろ…」

「ほら、いつまでも寝ていないで起きて下さい。貴方に寝ていられては、僕の仕事が進みません」


低くドスを効かせた、如何にも不機嫌な声で名を読んでも、彼女はまるで怯まない。

僕のベッドに腰掛けて、ぽんぽんと僕の背中を布団越しに叩く。

優しい、手。


「起こさないでよ…」

「無理言わないで下さい」

「まだ眠い」

「子供じゃないんですから、定時できっちり起きなさい」


半分だけ出した頭を、骸の綺麗な手が撫でる。

小鳥のさえずりより、朝の陽射しより、ずっとずっと心地好い目覚め。

僕にとって極上の朝には、骸が不可欠。


「………」

「…恭弥様?」


頭を撫でていた骸の手を取って、細い指に口付ける。

1本1本の指先に、ちゅ、と音を立てて口付け、高い位置にある骸の色違いの瞳をじっと見つめて。


「起こしてよ」

「…ですから、もう子供じゃ、」

「子供じゃないからこその、起こし方ってあるでしょ」

「…………」


骸の手を掴んだのとは逆の手で、剥き出しの太股に触れてみる。

ミニのエプロンドレスから覗く脚は細いのに柔らかくて、触っていて凄く気持ち良い。

ガーターの中に指を滑り込ませ、しっとり吸い付くみたいな感触を楽しむ。


「っ…恭弥、様」

「ほら、起きて欲しいんじゃないの。仕事進まないんでしょ起きないと」

「……もう…」


骸の上半身が傾ぎ、僕の唇にあたたかいものが重なる。

軽く触れただけで離れて行こうとする骸の後頭部を掴んで、無理矢理深く口付けた。


「…ん、…!」


骸の唇を舐めて、そのまま舌を口内に差し入れてやる。

肩を跳ねさせたけど、抵抗はない。

華奢な腕をベッドに突っ張って、僕の上に倒れ込むのを耐えてる。

…可愛い。

直ぐに力なんか入らなくなるの、解ってるだろうに。


「ふ、っ…ぁ……、ぅ」


ちゅく、と、いやらしい音が互いの唇から洩れ出して、至近距離にある骸の瞳に涙が滲み始める。

宝石みたいに鮮やかな緋と蒼が濡れて輝く様は、喩え様がないくらい、綺麗で。

ずっと見ていたいって思う。

けど、骸が本当に苦しそうだから、最後に唇を一舐めして離してやる。


「…は、ぁっ……!」

「未だ慣れないの」

「煩い、です…子供の癖にっ!」

「子供じゃないんだからって言った癖に」


結局、骸の腕からは力が抜けて、僕に躰を預けてる。

荒い呼吸の所為で上下する背中を擦ってやると、少しずつ落ち着いてくるのが可愛い。


「…ほら、もう起きて下さい」

「やだ」

「ちゃんとキスしたでしょう?いつまでも我が儘言わないで…」


擦っていた腕で、そのまま抱き締める。

僕に押し付けられてる胸が文句無しに柔らかくて、もっともっと触れていたくなる。
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