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□思い出
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「ねぇ、骸」

「はい?」


初めて会った時から、僕らはずっと殺伐とした関係のままで。

唇を合わせる事も、躰を重ねる事も、数えられないくらいして来たのにそれだけはずっと変わらないままで。

甘い甘い空気は、僕らの間には決して生まれないもので。

仮にも恋人である筈の僕らの間には、有り得ないもので。

けれど。



「消えないんだけど、これ」



それが凄く凄く、心地好いんですよ。

僕だけ、なんですかねぇ?








































触れた頬に確かに残る、覚えのある傷痕。

この傷を付けたのは僕自身だ、覚えがあるのは当たり前。


「おや、痛々しいですね」

「白々しい。君でしょ、これ付けたの」


沢田綱吉と初めて相対した時、契約の為に付けた傷。

それ程深く抉ったつもりはなかったし、今まで残っているというのは少し意外だ。


「そうでしたっけ?」


一撃の元に僕を薙ぎ倒した男は、憑依してみれば立っていられない程の傷を負っていた。

君の躯で倒れ込んだあの時に初めて、僕は君に興味を持ったのかも知れない。

骨を幾つも折られながらも僕を追うその執念、とてもとても、面白いと思った。


「君に付けられた傷がいつまでも消えないなんて気味が悪いよ。直ぐに消して」

「無茶を言わないで下さい。傷の治り具合は君の自己治癒力の問題でしょう?」


忌々しげに頬を撫でる君が、凄く愛しい。

悔しいですか?

僕に傷を付けられた事が、その傷がいつまでも消えない事が。

傷が消えたからといって、契約の事実がなくなる訳ではないのに。


「別に消えなくても良いじゃないですか」

「良くないよ」

「僕は残っている方が嬉しいですがね。…その傷が残る限り、君は僕を忘れない。違いますか?」


女々しいと言われても良い。

似合わないと言われても良い。

僕は君の頬に残るその傷を見る度、酷く嬉しくて泣きそうになる。


「その傷が残る限り、君は僕に縛られてくれるでしょう?」

「…もっと可愛らしいもので縛ろうとか、そうは思わないの」

「例えば指輪や赤い糸ですか?…そんなロマンチックなものより、この方がずっと僕ららしいと思いますよ」


血を媒体とした契約。

君の躯奥深くに刻み込んだ“僕”の証。

君が僕のものである証に、
これ以上のものはない、でしょう。


…こんな風に思っているのは、僕だけなんですか?



「…ねぇ、骸」

「はい」



君の傷を見て悦ぶ僕は、きっと酷く歪んでる。

それが幸せだなんて、深く深く、何処までも、堕ちている。


けれどね。










「君の躰中に、傷を付けて良い?」












(それは僕が君のものである証)












fin.

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