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□左手が冷たい
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新学期が始まって、何日かが経った。

季節は春というやつなのに、今日は何故か妙に寒い。

吐く息が少し白くて、冬並だなんて言わないけど、春と言うには厳しい。

上着の1枚もなしに下校路を歩く僕達は、この寒さに対してあまりに無防備で。


「雲雀くん」

「なに」

「寒いですね」

「そうだね」


一緒に帰っている筈なのに、君の歩調は僕よりも確実に速い。

暴君で亭主関白主義の君らしい。


「雲雀くん」

「なに」

「寒い、ですね」

「うん、寒いね」


少し後ろを歩く僕を振り返りもしない。

確認しなくても、僕がちゃんと着いて来るって信じてるから?

多分そうなのだけど、君は絶対肯定はしないのだろう。

君みたいにずっと喋ってれば確認しなくても解るよ、とか、そんな風に言う筈。

素直じゃないところも、好き。


「雲雀くん」

「なに」

「僕、寒いんですよ」

「僕だって寒いよ。…何なの、さっきから」


…素直じゃないところも好き、なんだけど。

いつもいつも行動を起こすのは僕で。

君は言葉さえもくれた事は数える程で。

それがさみしい、なんて言ったら、僕は我が儘だって怒る?

そんな事知らないよ、って、呆れる?

僕はそれが怖い。


「解ってませんね。可愛い恋人が寒いって言ったら、普通は黙って手を握って自分のポケットにお招きするものでしょう」

ふざけてなら、言える。

今みたいに。

でもこれが本気ですって言ったら、君はどんな反応をする?

重い、なんて、思われない?

僕を嫌いに、ならない?


「何それ、そんなの漫画だけでしょ。大体ズボンのポケットに2つも手入らないよ」

「…それは、そうですけどね」


ほらね、やっぱりこうなる。

僕の望みはあっさり却下。

僕がふざけた風を装ったから、君も真剣には取り合わない。

…それで良いんだ、きっと。

君に呆れられるくらいなら、君に重いなんて思われるくらいなら、―――君に嫌われるくらいなら。

全部全部、冗談。


それで、良い―――



「何してるの」



俯いた僕に、ふと、君の声が降る。

顔を上げれば、君は立ち止まって僕を振り返り、左手を僕に差し出して。


「…え、」

「ほら、手。繋いで欲しいんでしょ」


ぶら下がったままの僕の右手を、乱暴に取った。

そのまま前を向いて歩き出す。

君のペースで。

僕には、少し速い。


「…な、んで」

「どうしたの」

「手、繋ぐの、…嫌なんじゃないんですか」


寒い中で冷えた手が、君の温度に侵食されていく。

あたたかい、君の掌。

触れたくて堪らなかったもの。


「そんな事言ってないよ」

「だって、漫画だけだって…」

「ちゃんと聞いてた?僕は、ポケットに手を入れるなんて漫画だけって言ったの」


君のペースに合わせて、小走りになる。

僕よりも小さいのに君の方が歩調が速いなんて、不思議。


「…手を繋ぐのが嫌だなんて、一言も言ってないでしょ」


気付いてしまった。

君の頬と耳、ほんの少し赤らんで。

…寒さだけの所為じゃ、きっとない。


「雲雀くん」

「なに」

「右手は暖まりましたけど、左手が冷たいです」

「…どうしろって言うの」


君は努力をしてくれたんですね。

いつもの君より少しだけ、素直になってくれたんですね。

そんな君が大好きです。

この世にある他の何より、君を愛しています。

ずっとずっと、好き。


「早く帰りましょう?家に着いたら、…全身、あたためて下さい」


「…珍しく大胆だね」


「たまには、素直になるのも悪くないでしょう?」



恋は素直が1番です。




君が好き。


君を愛してる。



君に触れたい、

君に触れて欲しい。












素直にそう言われて、嬉しくない筈がないから。














「今度ね」


「?」


「上着着てる時、やってあげる」














ほら、ね。










嬉しくない筈がない!












fin.

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