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□不可抗力
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「駄目だよ、許さない」

ぴしゃりと跳ね退けられて、骸は言葉を詰まらせる。
取り付く島もないとは正にこの事。
雲雀はいつもこうだから、特別今回がどうこうという訳ではないが。
でも。

「そ、んな…っァ…!」

スカートを掴んだまま床にへたり込み、骸は真っ赤な顔を俯ける。
躰全体が小刻みに震えて、力が入らない。

「…っ願、しま…す…!」
「駄目。…物解りの悪い子は嫌いだよ」

嫌い、そう言われて骸の顔が歪む。
雲雀に嫌われる事を、雲雀に捨てられる事を何より恐れる骸にとって、それは他のどんな仕打ちよりも辛い言葉。
これ以上頼んでも雲雀に呆れられるだけ。
そう判断したのか、骸は涙を浮かべながらも反論するのを止めた。

「……そんなに、辛いの?」

自分の躰を抱く様にして座り込む骸に、先程とは一転して優しい声色で話し掛ける雲雀。
骸は暫し黙ったが、小さく頷く事で雲雀の言葉を肯定した。

「そう。…なら、誰かに解放して貰えば良いじゃない」
「…ぇ…?」

意味が解らなくて、俯けていた顔を僅かに上げる。
乱れた前髪の隙間から雲雀の顔を覗いてみるが、その表情は涼しげで、考えが読めない。

「良い、骸。辛いなら、誰かに助けて貰いなよ。…自分でやったら許さないから」

「……っ…!」

何かで思い切り頭を殴られた様な衝撃。
頭の中が真っ白になって、骸は只茫然とし、雲雀の言葉を反芻する。

「おねだりの仕方は、僕が教えてあげる」

妙に優しい声が、熱に浮かされた感覚を更に麻痺させる。
じわり、と、躰の奥深くまで入り込む。
それは毒の様に甘く、骸に拒む術などない。


「…上手に出来たら、御褒美あげるよ」


優しく優しく、微笑む雲雀。

目尻から一筋、頬を伝って涙が流れ落ちた。



































連れション、それは仲良しの象徴。
一緒にトイレに行く事の何処ら辺に友情を見い出すのかいまいち理解に苦しむが、世間一般的に仲良しの象徴である事は間違いなく。
沢田綱吉、獄寺隼人、山本武もそれに漏れず3人纏めてトイレに来ていた。
とは言っても実際用を足しに来たのは綱吉と山本の2人で、獄寺は綱吉のお供だ。
2人がトイレに入ると、獄寺は入口横の壁に背中を預けて2人(というか綱吉)を待っていた。

「…タリー…」

騒がしい廊下をちらりと見遣り、ひとつ息を吐く。
綱吉の傍に付き従う為にこうして学校へ来てはいるが、獄寺にとって学校自体はそう重要なものではなく。
簡単な授業、下らない人間関係…どちらかと言えば学校など面倒が多いだけでメリットがあまりない。

特に気に入らないのは、雲雀恭弥の存在。
決して口には出さないが自分より確実に強く、恐らくは年上。
更にあの六道骸とそういう関係らしく、黒曜生である骸を毎日の様に並盛中に、応接室に連れ込んでいる。
只でさえ黒曜生というだけでも評判が良くないのに、骸は綱吉を狙っていた、…否、今でも狙っている女。
綱吉にとって不利に働くものが直ぐ傍にあるこの状況を生み出しているのは、間違いなく雲雀恭弥。

つまり単純に言えば獄寺は雲雀を好きではない、寧ろ嫌悪している。
こんな風に廊下をふらふらしている時に、いきなり骸に襲われる事だって考えられるのだ。
気怠そうにしながらも、獄寺は常に周囲を観察し警戒している。
いつどこに骸が現れるか、解らないのだから。

「………ん?」

ちらりと視線を向けた先に、妙な人だかり。
ざわざわと騒がしい。
気になってその場に足を運ぶと、獄寺の姿を認めた人だかりが割れた。
開けた視界の真ん中で、人々に囲まれていたのは。

「……骸…!」

ボンゴレ10代目沢田綱吉を狙う、黒曜中のボス・六道骸その人だった。
女の癖に雲雀を倒す程に強く、六道眼とかいう妖しい力を使う危険人物。
骸の姿を確認し、反射で両手にダイナマイトを構える。

「てめぇ、性懲りもなく未だ10代目を狙ってやがるのか!?」
「…………」

人だかりがダイナマイトを見て更にどよめき、遠巻きに獄寺と骸を見る。
骸は下を向いたまま何も言わない。
威嚇する獄寺と、沈黙する骸。
骸にしては妙な反応に、獄寺は眉をひそめた。

「…おい、骸…」
「ッ…!」

不信に思い名を呼んだ瞬間、骸の躰が崩れ落ちた。
膝が折れ、細い躰が床に倒れ込む。

「!骸!?」

明らかに様子がおかしい。
思わず伏せる骸に走り寄れば、その躰が小さく震えているのが解った。
呼吸も荒い。
顔は俯けている為に見えないが、見える耳は真っ赤になっている。

「…具合、でも、悪ぃのか?」

骸は獄寺の問いを只首を振って否定するだけで、何も言わないまま。
黒曜中の制服で廊下に倒れる女は、この並盛中では勿論珍しいもので、野次馬はどんどん集まって来る。
しかも骸はこの容貌だ…噂が噂を呼ぶのだろう。
可愛い黒曜生が倒れてる、とか。
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