2

□綺麗
1ページ/2ページ


上がる湯気と、石鹸の香り。

気持ち良い温かさに、眠気を誘われる。


「骸」

「ふ…」

「此処で寝ないで。もうちょっと我慢」

「むー…はい…」

「ん。いい子」


雲雀くんはそう言って、湯で濡れた僕の頭を撫でてくれます。

湯船に浸かる僕と、躯を洗う君。

僕は先程雲雀くんに全身洗って貰い、今はもう特にする事がない。

極限まで疲弊した躰に風呂の心地好さは正直辛くて、眠気を抑えるのに必死だ。


「…ヤり過ぎです、雲雀くん」

「疲れた?」

「当たり前でしょう、何発やったと思ってるんです…」

「4発」

「数えてたんですか。それもそれで意外ですね」


眠気を誤魔化す為には何かをしないと。

でもする事が見付からなくて、とりあえず雲雀くんに話し掛けてみる事にした。

雲雀くんはと言えば、躯を洗い終ったのかシャワーの蛇口を捻って湯で泡を流している。

細いのにしっかりした躯。

そのラインに沿って流れる湯が、泡に覆われていた躯を露にする。

過度ではないけれどちゃんと筋肉のついた腕とか。

細い腰とか。

そう言えば明るい場所でまじまじと見るのは久々で、つい凝視してしまう。


「なに、随分熱い視線だね。穴空きそう」

「あ、すみません、つい」

「欲情した?もう1回やっとこうか」

「魅力的な申し出ですが、謹んで遠慮しますよ」


僕には勿論そんな気はなく、雲雀くんも軽口のつもりの様だ。

結果これ以上誘われる事もなく、僕はまた雲雀くんの躯を見つめた。


「…ねぇ」

「はい」

「何なの、さっきからじっと見て」


雲雀くんは少しだけ、居心地の悪そうな顔をする。

何だか可愛いです。


「駄目ですか、見ちゃ」

「駄目ではないけど。気になるでしょ」


おや、照れてるんですか?

意外な反応ですね、何だかレアです。


「別に深い意味はないんですけど…綺麗だな、と思って」


ぽつ、と。

何も考えずに喋ったら、つい出た。

雲雀くん、凄い驚いた顔してこっち見てますね。

そんな変な事言いましたか、僕。


「なに、急に」

「急ですか」

「急だよ」

「そうですか?思ったから言っただけなんですけど」


急、か。

確かに急かも知れない。

でも仕方ないです、本当に思ったんだから。


「雲雀くんは綺麗ですよ」


こうして明るい場所で見ても、暗い場所で見ても。

笑ってても、怒ってても、滅多にないですけど泣いてても。

中でも、戦っている時が1番綺麗だと、思う。


「綺麗過ぎて眩しいくらいです。隣に立つのが僕だなんて、分不相応ですよね」


真っ直ぐで美しくて、いつだって強い雲雀くん。

歪んでて醜くて、いつだって弱い僕。

釣り合わないって事くらい、僕が1番良く解ってる。


「何言ってるの」

「事実ですよ。君は綺麗で、僕は醜い」


僕よりずっと君に相応しい人は、きっと別にいるんだろう。

そんなの、解ってる。

立ってる世界からして、君と僕とでは違うだろう事も。

けれど。


「…ま、正反対のものが傍にあるからこそ、お互いが際立つものですしね」


こんなのは只のこじつけ。


「きっと正反対だからこそ、僕は君を好きになったんですよ」


僕が傍にいたいから、傍にいる。

君が僕を求めてくれるから、傍にいる。

それだけで、良い。



「大好きです、雲雀くん」



君の美しさを知って。

君と僕の違いを知って。

…もっと、君が好きになった。

これから先も、今よりずっと、君を好きになる。


自信が、ある。



「…馬鹿、」

「馬鹿で結構です。好きです、雲雀くん、好き好き大好き、愛してるっ」

「そろそろ黙って。襲うよ」


だって、好き、なんです。

愛してるんです。


仕方ないじゃないですか!



「君くらいしか、僕の隣に立てる人はいないよ」

「僕しか好きじゃないからですか?」

「そう。解ってるじゃない」



クフフ、それは勿論。

僕が君を愛しているのと同じくらい、僕は君に愛されていますから。

解ってます、君はいつも真っ直ぐだから。




「愛してるよ、骸」


「僕も愛してますよ、雲雀くんっ」












(あぁ、そんな風に微笑わないで)
(我慢が出来なくなるよ!)













fin.

→Next後書き。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ