短編
□聖なる日に
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番外編
「ハンジ、ラリサはどうした?」
エルヴィンはラリサに頼んでいた書類をハンジが持ってきた為に首を捻った。
「あぁ、ラリサなら高熱が出たみたいで起き上がれないんだ。さっき薬を作って持っていったのだけどね飲んでくれないんだよ。」
「そうか、いつからだ?」
エルヴィンはサインしていた手を一度止めてハンジを見た。
「昨晩からかなー。」
その一言にエルヴィンはガタッと椅子をならして立ち上がると急いでラリサの部屋へ向かった。
執務室に残されたハンジは、
「あーやっぱりラリサの所に仕事を置いて行ったよ、ほらミケ見てた?3000円頂戴よ。」
そっと廊下で立ち聞きをしていたミケに向かって叫んだ。
どうやら二人は彼らで賭けをしていたらしい。
「フッ」
ミケは鼻で笑うと珍しいものを見るようにその遠く離れた背を追った。
ーーー
その頃ラリサは熱で身体が火照り独特な浮遊感と戦っていた。猛烈な全身の痛みと倦怠感ももれなくついている。
熱が出ていると気弱になる。
目を瞑れば悪夢へと堕ちるし、目を開けていても心細く寂しい。
「にぃ…。」
小さな声で自分の兄代わりでもあり父親代わりでもあり、恋人でもあるエルヴィンを呼んだ。
「にぃ、に…。」
「何だいラリサ。」
「えっ!?エルヴィン…。」
まさか、今まさに求めていた人物が前に現れて驚き目を見張った。
思わず起き上がろうとすれば、目の前がぐにょっと歪み頭を押さえれば、
「駄目じゃないか、急に起き上がろうとしたら」
その大きくてゴツゴツした手が優しく私の身体を支えてもう一度寝かされた。
「ありがと、エルヴィン。」
エルヴィンに感謝の眼差しを向ければ、少し残念そうな顔をされた。
「あぁ、ラリサ。さっきはにぃにと呼んでくれたのにもう、呼んでくれないのかい?俺は昔の甘ったれたラリサを久々に見ることができて幸せだったのに…。」
心底残念そうに言われたら私に勝てるわけがない。
と、言うよりも元々言葉上手なこの人に勝てるわけもない。
「…にぃに」
小さな声で呟けば他の人には見せない花の開花したような暖かい笑顔で、頭を撫でられた。
「子供扱いしないでよ。」
その動作にむくれながら反応すれば、
「そうか、子供で無いのならば取って置きの方法で熱を醒ませるな。」
先程とうってかわってこれでもかと言うくらい悪どい笑みを浮かべた私の恋人がいた。
…しまった。
そう思った時にはもう遅い。
私は彼の策略に見事に嵌まってしまったのだ。