ウサギの物語

□二人の少女No2
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あれは−まだ2人が3歳になったばかりのこと。
親が亡くなった2人はなんとか生きていこうと山で食料を探していたときのこと。

「菜月、今日の夕飯なに?」
「材料がないのに夕飯が決まるはずない。」
「お腹空いた」
「我慢しなさい。」

その日はあいにくの雨で、食料(動物)が見つからなかった。

「うー、もうやだ。帰ろう?」
「…一人で帰りなさい」

 座り込んでしまった菜摘に冷たく言い放つ菜月。
 姉のことは好きだが、こんな最悪な日にこの上食事抜きでいようという姉の神経はどうしても理解できなかった。こんな日に食事しなかったら死んでしまうかもしれないとさえ思った。
 1日食事しない程度では到底死なないのだが、幼い菜月に分かるはずもない。
 その頃菜月は、自分が親を殺したこともあり(2章、1ページ参照)、姉をも殺すわけにはいかないと責任を感じていたのだ。

 そのときだった。誰もいないと思っていた茂みから、男性が出てきたのだ。
 一気に戦闘態勢に入る菜月。男性は驚いたように口を開いた。

「おいおい、子供が何でこんな所にいるんだ?ここは危険区域だぞ。」

 どうやら食料を探している間に森のずいぶん深い所まで来てしまっていたらしい。

「帰り道、教えて下さい。」

 菜月は瞬時にこの人は危険じゃない、と判断して戦闘態勢を解いていた。そういう能力は生まれつきで、なんとなくで分かるものだ。
 しかし、帰り道を聞いてきた子供にどう対応するまで分かるはずがない。

「アー、悪ィな。説明は苦手なんだ。何処に住んでる?案内してやろう。」

 菜月は思わず顔を引きつらせた。自分の重大なミスに気づいたのだ。安心して道を聞いてしまったが、相手は大人。騙されてどこかに連れて行かれるというケースも少なくはない。親のいない孤児だと分かればその可能性は跳ね上がる。よくて孤児院悪くて人身売買だろう。ちらりと姉を見るが、もう動けない…とつぶやいている。逃げることも困難だ。

「すみません。やっぱり結構です。」

 そう言って立ち去ろうとするが、男性も引き下がらない。

「何を遠慮している?子供が遠慮してどうするんだ。」
「本当に結構です。」

 嫌悪感を露にして言うと、男性は困ったように頭をかいた。

「そんなに信用できないかぁ。アー、訳ありか?とりあえず、俺の家に来ないか?飯をご馳走してやる。その子の様子じゃ、ろくなもん食べてないんだろう?」

 苦笑いを浮かべながらいう男性に、不覚にも菜摘が飛びついていく。舌打ちしそうになりながら、自分の装備を確認した。携帯ナイフに銃、様々な薬の解毒剤も少しずつあり、もしものときも大丈夫だと思った。

「分かりました。」

 そう答えながら、世の中に闇の取引というものがあってよかったと心から思う。自分が持っているものは全てそれで手に入れたのだから。
 金があれば年齢関係なく売ってくれた商売人に少なからず感謝する。

「まぁ、そうかしこまるな。」

 豪快に笑う男性を見て、強引にそうしたくせに、と殺気を送ってみるが、子供の殺気など痛くもかゆくもないらしい。平然としている。

「わたしは蘭、この子は椿です。…名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 まだ名乗っていなかったことを思い出し、適当な偽名を名乗って、相手の名前を聞こうとした。本名を名乗るなど、誰がするものか、という思いは心の中にとどめながら。

「おお、そういえばまだ名乗っていなかったな。俺の名は、ジンという。気軽に呼んでくれ。」

 

 これが、ゴンの父親、ジン=フリークスとの出会いだった。 
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