short

□アイネクライネ
1ページ/2ページ


「あっ、ヤス。久しぶり。」


そんないつかを思い出した。

今は一人で部屋にいる。

平然を装ってかける言葉。

でもほんとは会えてすっごい嬉しい。


のに。


「あっ…、春歌…。久しぶりやね。」

ぎこちない作り笑い。

それが悲しくてしょうがないんだ。

ヤスは優しいからきっと人一倍悲しいんだ。


それでも、一緒に話したり映画見たりするのは楽しくて。

すごいキレイな思い出で。


でも。だからこそ必ずくるお別れが痛いんだ。


それでも好きだから。

お互い無理して笑顔張り付けて終わりにむかっていくんだ。


ヤスの今を壊すくらいならもう死んじゃえばいいのかな、とかやっぱりそういうひねくれた考えにはしって。


でも優しいからそれはそれで傷つきそう。


だからいつか現れるであろうお似合いの誰かが来るまで、


誰も知らないまま、一人傷ついていこうと思うんだ。

でも本当に好きなんだよ。

その思いは嘘じゃないんだよ。


でも素直に信じられないよう世間が、世界がするんだ。

だから後悔はお互いにしたくない。
キレイな恋で終わらせたい。


ヤスにこの思いが全部伝わればいいのに。

伝わらないからこそ今みたいに隠し事が積もっていくんだ。


だから作り笑いでその場をしのごうとしちゃうんだ。


嘘で素直な言葉のひびきを殺してしまうんだ。


「強いから大丈夫だよね。」って前に言った言葉。


でも本当はただの弱虫で、意気地なしの人間。


なのにどうして、



「信じてるから大丈夫。」

なんて言っちゃうんだ。


こんな日々から生まれる悲しみが、苦しみが、切なさが、


いつかヤスと二人で「いい思い出だね」って笑えるようなそんな未来がもしあれば。


今の辛さなんてただの障害だと思えるのに。


そんな未来が来ないから、泣きたくなるんだ。


涙で視界がぼやけてく。


テレビの奥の笑顔がにじんでく。


ヤスと一緒にいられるのはいくつもの奇跡の連鎖で。

だからそのあとの辛さなんか当たり前なのかもしれないけど。


むしろこんな辛さなんか足りてないかもしれないけど。


辛いんだもん。苦しいんだもん。


涙が溢れて自分が壊れそうになったところで家のインターホンが鳴った。


涙をグイっと拭って玄関に出ると、大好きな笑顔があった。


「春歌!どしたん?目ェ腫れてるで?」

「なっ、何でもないよ!あがってって。」



そうだ、いつも壊れそうになるといつも名前を呼んでくれるんだ。


アイネクライネ


終わり。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ