みどりいろのくも

□みどりいろのくも【最終話】
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ブー、ブー








暗い名無しさん の自室で携帯が鳴る。


着信は手嶋からだった。

名無しさんは泣いた赤い目を擦りながら電話に出る。




「……も、もしもし…」




《あ、 名無しさん? 》




「じゅんちゃん……」


手嶋の声を聞くや否や、さっきやっと止まった涙がまた溢れ出してきた。





巻島からの返事を聞いてしまった あの後 名無しさんは 逃げるように巻島の元を去り、暗い自室にこもっていた。




「じゅんちゃん、ごめ……ごめんね、折角協力してくれるって…言ってくれたのに…フラれちゃった……」






《 名無しさん…… 》







「でもっ、ちゃんと明日には、いつも通りの態度で頑張れるようにするからっ……だから……」




泣きすぎて上手く言葉が出てこない 名無しさんに手嶋は、















《…… 名無しさん、あのさ、ちょっと今から話せないか。そうだな、3分くらい?》




「……今はむり。だって、さっき巻島さんから直接聞いたもん。同じ答えをまたじゅんちゃんから聞いたら…明日まで立ち直れないよ…」




名無しさんはまた泣きそうになっている。




すると手嶋は





《百円》




「……え?」






《さっき飲み物買いに来た時、小銭百円落としたろ、ロビーで待ってるから。今、取りに来て》







嫌でも手嶋は 名無しさんと話をしたい様子だった。





「……もう……分かった」









ため息を付き、 名無しさんは重い腰を上げロビーへ向かった。














□□□






泣いて少し腫れた目を濡れタオルで冷やしてから 名無しさんは手嶋が待つロビーへ向かった。














「(目、冷やしてたら少し遅くなっちゃった……)」





名無しさんはパタパタと廊下を走った。



「(気が重いなぁ……)」





曲がり角を曲がる。






すると、

















どん!











「きゃっ!ご、ごめんなさい!前見てなくてっ」








「(あれ、これ前にも……おんなじような …)」









名無しさんは顔を上げるとそこには、









「ま、巻島さんっ……」






そこには百円を握りしめている巻島の姿があった。




「……よォ」





名無しさんは顔を伏せた。



「こ、これ、さっき手嶋から預かったッショ……」



巻島は 先程名無しさんの落とした百円を優しく手渡した。



名無しさんはただ泣きそうな気持ちを抑え、精一杯答える。












「あ、ありがとうございます…お休みなさい!」






そう言ってまた、逃げるように巻島の元を去ろうとした時、










「待つッショ!」







と、先程とは違う
少し強い力で 名無しさんの手首を掴み引き留めた。



「とりあえず、話聞けって!」






「い、今はむりです!離してください!」




「それは俺がむりッショ!」



「なんでですか!だって巻島さん私のこと、嫌いじゃないですか、引き留めないで下さいよっ、また同じ答えを聞いて二回もフラれたくないんですっ、」



耳を塞ごうとする 名無しさんに巻島は、







「違うって!今度のことは全部、俺が手嶋に頼んだことだったんショ!」








「……え?」













頼んだ?じゅんちゃんに?何を?








目を丸くする 名無しさんに
巻島がぽつりぽつりと話し出した。









「……いつかの渡り廊下でぶつかった時のこと、覚えてるか?」



名無しさんは黙って頷く。








「お前にとっては、あれが初めて俺を知った日だったと思う……」






けど、と、続けて




















「俺は 名無しさんが俺を知るより前から 、ずっと……その…………気になってたッショ……」






「……え……」








名無しさんは言葉を失った。








「それから、二年に気になる子がいるって手嶋に相談して話してくうちに、それが…… 手嶋の幼馴染みの名無しさんだって知った……」







驚きで、黙るしかできない 名無しさん。







「で、手嶋が今度の、この合宿があるのに気付いて……あいつが監督と金城、それに寒咲マネージャーに頼んで……合宿の5日間限定で、 名無しさんをマネージャーとして連れてきたんショ…」






「……」






「全部、俺が…… 名無しさんとの距離埋めたくて……手嶋に頼んでやったこと……なんだ 」





「……うそ、私……絶対巻島さんに嫌われてるって……」



「嫌いなんて言ってないッショ」







「だって、さっきじゅんちゃんと食堂で話してた時、ハッキリ無理って聞こえましたもん……」







「あぁ、違う違う。それは、手嶋に、この合宿中に告白できそうかって聞かれたんだ、でも合宿中はとてもじゃないが、無理って……そう言っただけッショ」










名無しさんは泣いていた。






「そ、そんなの、言ってくれなきゃ……分からないです……」









巻島は、 緑の頭を掻きながら






「だよな……こんな風に泣かせるなら、初めから遠回りしないで、直接言っておくべきだったッショ……」










名無しさんの目からは、拭いたばかりの涙がまた止めどなく溢れていた。







瞬間、












巻島の細い腕が名無しさんを優しく抱き締める。











「ま、巻島さんっ……」





突然の出来事に 名無しさんは目を丸くする。












焦る名無しさんだったが、






抱きしめられた巻島の胸から聴こえる早い鼓動に 落ち着きを取り戻した。







「(あ、おんなじ……)」














宝物を扱うように 名無しさんを抱き締める巻島は、深呼吸をして





















「いいか、一度しか言わないから、よく聞いとけ……」





「はい……」









































「好きだ」





















瞬間、











外は少し早い春の匂い。






名無しさんは優しい巻島の腕に包まれながら幸せを感じた。













そして、震える両手で、巻島の薄い背中に手を回す。

















「まっ、巻島さん……」




















泣いて 笑って



でこぼこ道。














「何ショ」















きっと、きっと







貴方となら、これから どんな




山だって越えて行けそうな気がする。








だから、少し贅沢だとは思うけど
























「私も、大好きです」




















もう少しだけ

このままでいたい、なんて
思っても いいでしょうか。



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