みどりいろのくも

□みどりいろのくもB
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爽やかな朝の日、
千葉からマイクロバスに揺られ約2時間。





「箱根やー!!」




と、一年生の鳴子くんが 隣で寝ている今泉くんをよそに はしゃいでいる。



「見てみー!スカシ!着いたで箱根や!」

「うるさいぞ鳴子、見れば分かる」




青々とした山に囲まれた空気は気持ちよい位、澄んでいて観光で来れれば名無しさんも鳴子位にはしゃいでいたかも知れない。




バスが止まり、部員たちが5日間お世話になる宿舎へと、それぞれに荷物を下ろしてゆく。
名無しさんも手伝おうとした瞬間、



「名無しさん」



「あ、じゅんちゃん」



手嶋が名無しさんの顔を覗く。




「あんまり緊張しなくていいさ」




「え?」



「いや、慣れない人たちに、初めての場所。気疲れするかもしれないけど、気を抜いてさ、観光しに来た気持ちでいていいよ」


と、大きなバッグを背負いながら言った。


「じゅんちゃん…」



「って、まぁ、無理いって連れて来たのは俺なんだけどね」


分が悪いように苦笑した手嶋に
名無しさんはくすくすと笑う。



「ううん、そんな事ない、皆がインターハイで頑張れるように私もできる限りの事をするね、じゅんちゃん、ありがとう」



笑顔になった名無しさんを見て手嶋は安心した。

手嶋にそう言ってもらった名無しさんは肩の力を抜く。





「よし、私もちゃんと皆の役に立たないと」




そう言い名無しさんはバスの中にある、まだ運んでいなかった何本かのホイールを持ち出そうとした。




「ん、やっぱり、一気に持ってくのは難しいかも」









ホイールを分けて宿舎にもって行こうとしたその時、





またあの時のような細く長い腕が
すらりと伸びて来た。


































「あ、ま、巻島さん」


























巻島は名無しさんの持とうとしていたホイールを軽々と全て手にする。





「あ、あの、すいません、ありがとうございます」




「あ、イヤ…」




名無しさんに話しかけられた巻島は何故か少し気まずそうに見えた。





あの日、部室で名前も分かり、自己紹介をして
、今日の合宿まで何度か言葉を交わしたが、
他の部員の人たちより何故か距離が縮まらない。



そんな巻島にどのように接して良いのか、名無しさんはいまいち距離を測れずにいた。



出来るならばこの胸に生まれた小さな気持ち
を確かめたい、


そしてまた、あの渡り廊下で見た、優しく細い目をして笑ってほしかった。






「あ、あの、巻島さん、」



「何ショ」





でも、この距離では無理なのかもしれないと、名無しさんはうすうす感じていたが、そんな私情を合宿に持ってくる事は出来なかった。







そもそも、無知なマネージャーなんて最初からお荷物だなんて思われているのかもしれない…。



ぐるぐる考えても仕方ないと、
名無しさんは頑張って いっぱいの笑顔見せ、




「ホイール、持ってもらっちゃってすいません、やっぱり、私なんか無知すぎて最初から迷惑になっちゃうかもしれないのに、荷物すら持てなくて」











名無しさんが言いかけた時、









巻島は、ホイールの代わりに小ぶりの救急箱を渡してきた。








「えっ…」



と、不思議そうにしている名無しさんに、
































「こっち持って」





「あ、…え?」








「ホイールなんて持たなくていいッショ、女の子なんだし…」





驚く名無しさんに巻島は続ける。






「代わりに救急箱、持ってってくれ、る…かな?」











「あ、はい!」




名無しさんは巻島の優しさに心からの笑顔を見せる。




そういって巻島は少し恥ずかしげにホイールを片手に宿舎へと向かっていく。


そのあとを名無しさんは渡された救急箱を持ちながらパタパタと追いかけた。








緑色の背中に追いつくと、







「あの、巻島さんって、とっても優しいですね」









その言葉に巻島は、
驚いた顔をしたが、
すぐにあの時のように優しく、
細い目をして笑った。








































「クハッ、怖いでいいッショ」















どき。




















緑の髪が風になびいてゆく。








「(どうしよう……私……やっぱり、巻島さんのこと……)」







距離がなんとなく、縮まった気がした
爽やかなある日。

名無しさんは胸の中の小さな気持ちに気付く。
































「(…………好きかも)」











合宿はまだ、始まったばかり。






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