みどりいろのくも

□みどりいろのくもA
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コンコン、ガチャ。








「し、失礼しまーす」




名無しさんは緊張の面持のまま
総北 自転車競技部の部室に入った。













「名無しさん!」




「じゅんちゃんっ」






部室を開けると、幼馴染の手嶋が
笑顔で待っていた。



手嶋を見て安心した名無しさんは
安堵の溜息をついた。









「ごめんね、少し遅れちゃった」




「いや、大丈夫だよ。あ、名無しさん、こちらは部長の金城さんだ」






すると、紹介をうけたサングラスの部長は
礼儀正しくお辞儀をした。






「主将の金城真護だ、この度は無理を言って申し訳ない」



「あ、いえ!じゅんちゃ…手嶋君とは長い付き合いで、私も彼に色々お世話になってますし、今回雑用でよければ力いなれたらって思います」





「ああ、すまない、助かるよ」




怖い人かと思った主将の金城さんは以外にも優しそうなひとだった。





すると、


「ガハハハ!」




という笑い声と共に、がたいの良い3年生の先輩と、クラスメイトの青八木君が部室に入ってきた。









「おっ!5日間の限定マネージャーか!俺は田所迅だ、よろしくな!!ガハハ!」



「あ、はい、名無しさんと言います。一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします」




「ああ、まあ、そんなにキバるな!重い荷物持てとか無理な事は言わねぇからよ!」





「(…この人も良い人そうでよかった)」










次に、1年生の子が部室に入ってきた。







一人は背の高い子、もう一人は赤い髪の少し小さい子、そしてもう一人は…ホントに運動部っ?ていう感じの眼鏡の子。






「コラ、スカシ!お前今度の合宿箱根やし、九十九折のごっつキツい山でワイと勝負や!」



「は、苦手な山で勝負を挑もうなんざ、お前の不利なんじゃないのか」



「ぬかしおってスカシが!ワイにはインハイに向けた必殺技があるんじゃ!」


「フッ、そりゃぁ見物だな、でもその前に山なら小野田が前へ出るな」



「えっ、いやいや!僕は今泉君と鳴子君に頑張ってついていければなって思うよ」



名無しさんは一年生に挨拶しようとするも、3人は合宿が楽しみなのか、中々話しが止まらない。








金城さんは、3人に声をかけた。






「今泉、鳴子、小野田」




「「はい」」





「彼女、今度の合宿限定でマネージャー及び雑用諸々を手伝ってくれる、手嶋の幼馴染で2年の名無しさんさんだ」





「名無しさんです、えっと、今泉君に…鳴子君、とー、小野田くん?ですね…?よろしくお願いします」






「はい、よろしくお願いします」


「よろしゅうたのんますー」


「あ、よろ、よろしくお願いします!!」









眼鏡の子、小野田くんは、
何かに気付いたのか急にそわそわし始めた。








「あの、金城さん」




「何だ」



「えと、巻島さんは今日お休みですか?」






「いや、確かに来るはずだ。巻島も今日は小野田と峰ヶ山を登れる事を楽しみにしてた様子だったからな」


「そ、そうですか!よかったぁー」







その話を聞き名無しさんは





「あの、金城さん、巻島さん?って…」






「あぁ、俺と田所と同じく3年で総北屈指のクライマーだ」







クライマー。



幼馴染の手嶋がロードレースをしているから少しだけ知っているが、
クライマーとは坂を登る事を得意とする選手の事らしい。




総北屈指のクライマー。
どんなすごい人なんだろうと
名無しさんは考えた。



「(…怖い人じゃないといいな)」






「む、もうすぐに来るはずだ」



金城は時計に目をやる。



















瞬間、














部室の扉が開き、

見たことのある髪の色の男の人が現れた。














「悪りぃ、遅れたッショ」







「(…あ)」






現れた彼は緑の長い髪をなびかせていた。






「いや、巻島。時間内だ、問題ない」





金城の言葉に名無しさんは


「え、ま、まきしま…この人が、まきしま先輩…?」






名無しさんは目を丸くする。
次第に頬が染まるのを自身で感じていたが
頭がぐるぐるして考えがまとまらない。





「紹介しよう、彼がクライマーの巻島裕介だ」














彼は、間違いなくさっき渡り廊下でぶつかった人だった。
一度見たら忘れるはずがないその玉虫色の髪の彼。


名前を聞き忘れもう会えないかと思ったが、偶然にも また会え、
さらに聞きそびれた 名前も分かった。



しかも……



まさか、自転車競技部で今度一緒に合宿に行く人だったなんて。











「…よろしくッショ」







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