みどりいろのくも
□みどりいろのくも@
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「えーっ!マネージャー!?」
驚く名無しさんに手嶋は両手を合わせて頼んでいる。
「頼むよ、5日間だけでいいんだ、今度の箱根でやる合宿にマネージャーが必要なんだよ!」
この日、手嶋は名無しさんに
インハイへの強化合宿として、
5日間限定のマネージャーを務めて欲しいと
頼みに来ていた。
「マネージャーって…一年生の子が今も務めてるじゃない」
「いや、寒咲マネージャーはその日都合が合わなくて、どうしても来れないみたいなんだ」
頼むよ、と苦笑しながら手嶋は名無しさんにもう一度頭を下げた。
「えー。だって私、自転車のじの字も知らないのよ、足手まといになるだけじゃない」
「大丈夫!ちょっとした雑用とか、飲みもの作ったり部員のサポートしてくれるだけでいいんだ!な!?」
深く考え混んだ末、名無しさんは
「もう、しょうがないな、分かったわよ、」
「まじ!?やった!ありがとう!」
手嶋は小さな子供のように明るい笑顔を見せた。
「幼馴染が困ってるんだもん、5日位なら
とりあえず頑張ってみる」
「よっしゃ!サンキュー!!名無しさん!あ、じゃあ早速金城さんに伝えてくる!あと、部活始まる前に顔合わせの時間作っとくから、夕方ちょっと顔出してくれよな!」
「え、あ、うん!」
そう言うと足早に手嶋は名無しさんの元を後にした。
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夕方
「(あ、いけない。じゅんちゃんが夕方顔合わせって言ってたし、そろそろ部室にいこっかな)」
帰宅部の名無しさんは、いつもこの時間にはたいてい家へと帰ってしまっている。
億劫な気持ちを押し込み、名無しさんは少し重い腰をあげ、夕方の教室を出た。
腕時計を見ると、思ったより時間が過ぎている。
「(本読んでたらいつの間にか時間忘れてた、…少し急がなくちゃ)」
渡り廊下をパタパタと小走していると、
丁度曲がり角に差し掛かった時、
ドンッ!
「きゃっ!」
名無しさんはスラリと背の高い男の人にぶつかった。
よろけて後ろに転びそうになったが、
瞬間、長い腕が伸びてきて、
手首をつかまれた。
「あ、す、すみませんっ!前見てなくって」
慌てて謝った名無しさんは
その時初めて自分の腕を
つかんでいる男の人を見上げた。
その人は玉虫色の長いサラサラな髪をして
細い目でこっちを見ている。
「…(すごい色、きれい)」
名無しさんが緑色の髪に釘づけになっていると、
「だ、大丈夫かい?」
黙っている名無しさんを見かねた男の人は口を開いた。
「…え、あ!はい、すいません、髪がすごい綺麗だなって、…あ、違う!こちらこそぶつかっちゃって、ごめんなさい」
慌てる名無しさんを見て、
玉虫色の髪の彼は
「クハッ、何ショそれ、」
と細い目をして優しく笑った。
ドキ。
「(多分3年生だよね…)」
ドキ。
名前も知らない玉虫色の髪の彼は
名無しさんの腕をゆっくり離し、
細い背中を向けその場を去っていった。
「(……名前、聞き忘れちゃった)」
少し早い春の風に吹かれて、
名無しさんは胸の中に生まれた小さな
その気持ちを 彼の姿が
見えなくなるまで感じていた
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