ヒロアカ短編

□もうちょっと
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「…じゃ、じゃあね、轟くん、また明日!」


「…?ああ」




不思議そうに 返事をして 去っていく 轟の姿を見つめ、名無しさんは また、ため息をついた。




「はあ〜、今日も言えなかった…」



“好きです”


こんな簡単な言葉が言えずに もう何ヶ月も経つ。


轟は人気だから、そのうち すぐに彼女が出来てしまうかもしれない…。

そう思っても なかなか 告白出来ない。そんな自分に毎日呆れている。


「…私の意気地無し……」


情けない自分に対して 込み上げてくる涙。



それを拭おうとした瞬間。





「名無しさん」



振り向くと そこには、去ったはずの



「と、どっ、ろきくん…」


焦って思わず 片言になってしまった。そんな事より


「ど、どうしたの…?」


その問いに、轟は 表情変えずに答える。


「どうしたって。名無しさんの様子、変だった気がしたからな。気になって戻ってきた」


気にして 戻ってきてくれた…?



「そっか…、ありがとう」


嬉しくて つい 笑ってしまう。

泣きながら笑う名無しさんを見て もっと変だと思ったのだろう。



轟は首を傾げた。




「泣いてんのか、どうした。どっか痛てえのか」


「ううん、違うよ」


「じゃあ、なんだ、具合か? 気持ち悪りいのか? 吐き気には手の甲にある ここのツボを…」


「え、あのっ、ちがっ、」


そういって、轟は名無しさんの手を取り、“吐き気に効く”というツボを押し始めた。



「(轟くんの手、温かいんだ…)」



真剣に手の甲のツボを押す轟。



「どうだ、少し 楽になったか?」



顔を覗き込まれる。





この距離のまま、手を触れられたまま、





「えっと………そうだな。も、もうちょっと、かな…」



もうちょっと、一緒にいたい。



「そうか、分かった」



触れられた手から轟の温かさを感じる。
それが勇気に変わる気がして。




“今日も言えない”、そう思っていたけど、今日はいつもとは違う気がする。




「轟くん」



「なんだ」
























「好きです」


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