イナイレ 短編

□恋もスイーツも
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「ただいま」


玄関のドアを開けると、家政婦のフクさんが出迎えてくれた。



「修也さん、おかえりなさい」

「ただいま、フクさん」


そして 靴を脱ぐ間もなく、妹の夕香が パタパタと笑顔で走って来る。


「お兄ちゃん、おかえりなさ〜い!」

「ただいま、夕香」

頭を撫でると、夕香は 嬉しそうに目を細めた。
しかし、ふと、何かに気付いたのか ハッと、大きな目を開ける。




「そういえば お兄ちゃん。帰ってくるの早いね」

「そうか?」

「そうだよ!今日、名無しさんちゃんとスイーツ食べに行くから遅くなるって。昨日言ってたもん」



そうだ。夕香には つい話してしまっていた事を忘れていた。



俺は夕香の目線までしゃがみ、少し考えたあと、優しく答える。




「スイーツはまた今度だ。夕香に会いたくて、今日は早く帰って来た」



嘘をついてしまった。
本当は放課後。名無しさんに、風丸とスイーツを食べに行くと、申し訳なさそうに断られたのだ。


必要以上に 申し訳なさそうにするものだから、そのあと何も言えなくなってしまい、大人しく帰宅したというわけだ。



しかし、夕香は。




「え〜!せっかく、名無しさんちゃんとのデート話し、楽しみにしてたのになあ」

「デートじゃないだろう」

「二人で出掛けるなら、それはデートっていうんだよ!」




“二人きりで出掛けるのは デート”



それなら、今頃 風丸と名無しさんはデートをしている事になるのか。



何となく、胸の奥がざわつく。
なんだ、これ…。



「ねえ、お兄ちゃん。」


「?」


「お兄ちゃんは ちょっと優しすぎだよ」


「どういう事だ?」



夕香の言葉に ふと我に返る。







「名無しさんちゃん、とられちゃうよって事!」



夕香は、中途半端に脱ぎ掛けの 俺の靴をまた強引に履かせ、背中を押した。





「名無しさんちゃんと、デートするのは、お兄ちゃんなんでしょ!」





その言葉にハッとし、俺は少し情けなくなりながらも、夕香に笑いかけた。





「……ああ、そうだな…!」




トントン、と靴を履きなおし、帰ってきたばかりの玄関のドアノブに また手をかける。







「いってきます」





恋もスイーツも、諦めるのはまだ早い。




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