‡龍が如く‡

□通い合う心
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店の裏口近くで待つと、お先に失礼しますと店の中に声をかけた名無しさんが振り返って俺に気付き、小走りにやって来た。


「お待たせしました」

「…いや」

店ではパンツスーツを着ている名無しさん。

見慣れない私服のスカートがしかしよく似合っていて、俺は思わず見入ってしまった。


それに気付いてかどうか、スカートをきゅっと握りながら名無しさんが言う。

「いつも顔合わせてるのに、改めてこうして外で会うのって、なんか照れますね」


はにかんだ笑顔がたまらなく可愛くて、俺は抱きしめてしまいたい衝動をかろうじて抑えた。


「さて、どこに行きますか?映画、ボウリング、カラオケ、呑み…」

「俺の部屋」

「…っ、」

何気なく発した俺の言葉に名無しさんが声を詰まらせる。


「冗談だ、本気にするな。映画でも行くか?」

俺は名無しさんの頭に一度ぽんと手を置いてから歩き出した。


「…こと、言わないで…」

この時間だと何を上映しているだろうかと考えていると、背中に小さく声が届いた。


「名無しさん?」

振り返ると、名無しさんは立ち止まったまま俺を見ていた。

怒ったような、それでいて涙をこらえているような顔で。


「…っ、」

「おい、名無しさん!?」

直後名無しさんは、踵を返し走り出した。


「待てって、どうしたんだよ」

「あたし、堂島さんが好きなんです…!」

「っ!?」

追いかけて捕まえ半ば無理やり体を向き合わせた名無しさんの口からは、俺が求めてやまなかった言葉が飛び出した。


しかし名無しさんは俯いたまま続ける。

「叶わないのなんて分かってるから諦めようと思ってるのに…、勘違いさせるようなこと、冗談でも言わないでください…!」


その言葉に俺は名無しさんの腕を掴んでいた手を離し、俯きその表情を隠している髪をかき上げるように頬をなでた。

そしてゆっくりと問う。

「どうして、叶わないと思うんだ?」


「だって、堂島さんとあたしじゃ住む世界が違う…」

持ち上げた視線が哀しげに揺れるが、

「そこに負い目を感じなきゃなんねえのは俺の方だ」

俺がそう答えると、名無しさんは慌てて首を横に振った。


「そんなことないです!だってあたしは…っ、」

「だったら諦めるなんて言わないでくれ」

俺は名無しさんの言葉を遮って言う。

「初めは危なっかしい妹みたいだと思ってたのに、いつの間にか女としてしか見れなくなってた。勘違いじゃない、冗談なんかじゃない。俺はお前が好きだ、名無しさん」


「堂島、さん…」

その時、名無しさんの瞳から涙がこぼれ落ちた。

しかしいまだ半信半疑の様子の名無しさんの目じりにひとつ口づけ、驚いて目を見開いた名無しさんをそっと抱き寄せて俺は訊く。

「なあ名無しさん、俺と付き合ってくれないか」


そこでようやく、名無しさんは俺の胸で小さく頷いてくれた。

想いが通じ合ったこの瞬間――…俺は名無しさんを抱きしめる腕に、少しだけ力を込めた。










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