‡龍が如く‡

□A
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開け放たれたままの病室のドアを軽くノックすると、

「ユウヤ…!来てくれたんだ」

ぼんやりと天井を見上げていた名無しさんがその姿をみとめ、ぱっと顔をほころばせた。


「まだ起きんな」

「平気。もう大丈夫だから」

心配そうに言うユウヤに笑って見せながら、体を起こす。


「ありがと、ごめんね…って、ユウヤ?」

すると、名無しさんの体を支える手に力を込め、ユウヤは名無しさんを抱きしめた。


「ごめん…!気付いてやれなくて、ほんとにごめんな…!」

苦しげに言いながら髪をなでるユウヤの言葉が何のことを指しているのかは、名無しさんにもすぐに分かった。


「あたしも、言えなくてごめん…、ユウヤが望んでないかもって思ったら、こわかった…」

だから名無しさんも、ずっと抱いていた不安を口にした。


しかし返されたユウヤの言葉は、名無しさんの不安をあっけなく取り除くのに十分な力を持っていた。

「馬鹿だな、そんなはずないだろ!お前が望まなくても、頼むから産んでくれって言うよ!」


「ユウヤ…」

初めて逢った時から変わらないユウヤのあたたかさに、涙が出そうになる。


「もっと早く言えばよかったな」

するとユウヤはそう言いながら名無しさんを離し、ポケットから小さなケースを取り出す。

「また順番逆になっちまったけど、許してくれな」


それをそっと名無しさんに手渡し視線で促すと、名無しさんは遠慮がちにケースを開けた。

「ユウヤ、これって…」


驚いた様子で顔を上げた名無しさんにユウヤは真剣な瞳を向け、言葉を紡いだ。

「結婚しよう、名無しさん」


それに対し名無しさんは、少し不安げに小さく訊き返す。

「あたしで…いいの?」


「それ、最初ん時も訊いてたな。まぁ何度でも答えてやるけど…」

言いながら優しく笑ったユウヤは、

「お前じゃなきゃ、だめだ」

最初の時と変わらない言葉を、あの時よりも強くなった想いを込めて返した。


「名無しさん、返事は…?」

「…よろしく、お願いします…」


訊きながら答えながら、ふたりの距離はゆっくりとゼロになる。

それはまるで誓いのキスのように、ふたりの唇は、静かに重なった。





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