‡龍が如く‡
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優しく髪をなでる感触に、名無しさんはふと目を覚ます。
上げた視線がユウヤのそれとぶつかり、恥ずかしそうにその胸に顔をうずめながら名無しさんは呟いた。
「おはよう、ございます…」
「ああ、おはよう」
それをしっかりと抱きしめながらユウヤが答え、
「体、平気か?」
と訊けば、名無しさんははい、と小さく答えた。
「なぁ、なんであんなとこにいたのか…訊いていいか?」
しばらくの沈黙の後、ユウヤは思い切って切り出した。
名無しさんを抱いた感触から、最悪なことにはなっていないとふんでの質問だった。
すると名無しさんは、ユウヤの胸に顔をうずめたまま落ち着いた様子で話し出した。
自分は孤児で、小さな頃からずっと施設で育ったこと、
しかしその施設長に、規則だと言われて体の関係を求められ逃げ出して来たこと、
たどり着いたここ神室町でチンピラに絡まれ、必死で逃げてきたこと…。
そこまで話して名無しさんは、
「で、服も靴もどうしようかと思ってたところを助けてくれたのが、ユウヤさんなんですよ」
そう言って顔を上げ、にこりと笑う。
「ちょい待ち…、じゃあ全然平気じゃねえだろ」
しかしそこまで聞いたユウヤは逆に、焦りを露わに体を起こした。
「どうしてですか?」
シーツを手繰り寄せながら名無しさんも体を起こすと、ユウヤは申し訳なさそうに言う。
「…だってお前、初めてだったろ?それなのに俺…、自分本位にお前のこと抱いたし…」
するとそれを聞いた名無しさんはふふっと笑い、ユウヤの胸にこつんと額をぶつけた。
「大切なのは、誰に抱かれるかってことだと思うんです。あたしはユウヤさんがいいなって思ったから、ユウヤさんに抱かれたんですよ?」
「名無しさん…」
「もちろん、どうしてもイヤなのに無理やりとか痛いのとかは、いくら好きな人でもイヤですけどね」
そして名無しさんはそう言って、いたずらっぽく笑う。
ユウヤは、名無しさんを強く抱きしめた。
愛しい、という感情しか今のユウヤの中には存在しなかった。
普段ならチープだと笑い飛ばすだろう運命という言葉は、こういう時のためにあるんだと素直に思うことができた。
「なあ名無しさん、順番逆んなっちまったけど…行くとこないならここに…俺のそばに、ずっといてくれないか」
出会ったばかりだとか相手のことをよく知らないとか、そんなことはどうでもよかった。
腕の中のこの少女がほしい、ユウヤの願いはただそれだけだった。
「あたしで…いいんですか?」
名無しさんはユウヤの腕の中から顔を上げると、少し不安げに小さく訊き返す。
「ああ、お前じゃなきゃだめだ」
それに即答したユウヤが優しく笑うと、名無しさんははにかみ、そして頷いた。
抱き寄せられるままにユウヤの背に手を回した名無しさんは、そっと囁く。
「あたしも…ユウヤさんのそばにいたい、です…」
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