‡龍が如く‡

□A
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大吾の部屋への引っ越しが終わり少し落ち着いたところで、名無しさんはバンタムを訪れた。


「本当に、申し訳ありませんでした!」

深く頭を下げる名無しさん。


しかし戸部はそんな名無しさんを責めるわけでもなく、ただ理由を訊ねた。

噂は耳にしていたが、それが本当に事実なのかどうかを名無しさんの口から聞きたかったからだった。


「私は――…堂島さんが、好きでした」

すべてを話すわけにはもちろんいかなかったが、それでも名無しさんは大吾と出逢った時の気持ちは正直に打ち明けると決めていた。

「だからあの日、兄妹だということを聞かされてものすごくショックで。忘れたくて、…逃げました」


戸部は何も言わず名無しさんの言葉を聞いていた。

死人も出ず犯人もすぐ捕まったため大きなニュースにはならなかった通り魔事件。

そのニュースをたまたま目にした大吾が迎えに来てくれたこと、弥生にも会ったこと、これからは兄妹として一緒に暮らすことを名無しさんは淡々と話した。





「名無しさんちゃん」

もう一度頭を下げドアに手をかけた時、戸部がふと名無しさんを呼び止めた。


「つらくなったら、いつでもおいで」

その言葉ひとつで、名無しさんの中に色々な感情が押し寄せる。


「…はい」

溢れてしまいそうな涙を必死でこらえながら名無しさんは、そう返事をするのが精一杯だった。










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