‡龍が如く‡

□願い
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深夜目覚めた名無しさんは、土方の気配がないことに気付き慌てて身繕いをしようとする。

しかし、廊下から聞こえてきた声にふと動きを止めた。


「夜明けを待って、必ず無事に家まで送り届けてくれ」

それは、残った数少ない隊士に指示を出す土方の声だった。

「――私の大切な女性だ。よろしく頼む」


鬼の副長と呼ばれた土方の口から出た言葉。

「歳さま…」

あふれた涙が、頬をすべり落ちた。


許婚だからという理由だけで抱いてくれたのだと思っていた。

しかしそうではなかったのだということを、名無しさんはこの時ようやく知ることができた。


土方はこのまま行ってしまうだろう。

別れの挨拶もさせてはくれないまま。

しかし土方の気持ちを知った今は、名無しさんもそれでいいと思えた。





戦いに勝たなくてもいい、自分のもとに戻ってくれなくてもいい。

どうか歳さま…!

遠ざかり見えなくなっていく背中に向けて、ただひとつだけを名無しさんは願った。

それが、唯一無二の願いだった。



――どうか、生きて――…










(14,4,15)
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