‡龍が如く‡
□B
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名無しさんの体のリズムが戻るのを待って、大吾は名無しさんを抱いた。
赦されないと分かっていてそれでも愛し合い、世間の目を欺いてでも愛し続けると誓ったふたりにとってそれはごく自然な行為だった。
しかしその中にあっても大吾は、避妊だけは絶対に怠らなかった。
だからいくら二人きりであっても、不確実な場所では名無しさんを抱かなかった。
***
そんなふたりの生活が始まってしばらく経った頃、名無しさんはあることを考えるようになっていた。
ただ、それを解決するためには大吾にも話す必要があり、しかしそれだけはどうしてもできず名無しさんはひとり悩んでいた。
「最近何を悩んでいるんだ?」
当然大吾がそれに気付かないはずもなく、ごく当たり前に名無しさんに問う。
しかし返された名無しさんの答えは、大吾にとっては意外なものだった。
「なんでもない、です…今月は少し生理が重くて、だから」
心配かけてごめんなさいと大吾の腕をすり抜けていく名無しさんを無理に追うこともできず、そこは引き下がるしかなかった。
***
しかしその後も、平静を装ってはいるが名無しさんの様子はおかしいままだった。
「お帰りなさい大吾さ…、!?」
それからしばらく経ったある日、部屋に戻り出迎えてくれた名無しさんの無理して作る笑顔を見た大吾は、ただいまも言わず目の前の体を抱きしめた。
「やはりこれ以上は黙っていられない…頼むから話してくれ、名無しさん…!」
無理に聞き出すようなことはしたくなかった。
しかし最初の答えを無理矢理にでも信じられたのはせいぜい一週間だった。
どんなに考えても答えが見つけられなかった大吾は、苦しげに訴えた。
「それとも、やはり俺には力になってやれないことか…?」
その言葉にびくっと体を震わせた名無しさんは、大吾と自分との間に腕を入れて隙間を作り、そこに俯いた。
大吾がいつも与えてくれる大きな優しさが、今の名無しさんにはつらかった。
こうして触れられることも、どうしようもなくつらかった。
抱きしめられるだけで欲情してしまうから。
そんな浅ましい自分を――…隠しきれなくなってしまうから。
しかし本当は名無しさんも分かっていた。
自分ももう限界だということを。
こんな風に愛してくれる大吾に隠し通すこと自体、無理な話だということも。
「私…、自分がこんなにいやらしい人間だと、思わなかった…」
名無しさんは俯いたまま、消え入りそうな声で呟いた。
そのまま大吾のスーツの胸もとを握りしめ、何か続けようとしては言葉を呑み込む。
「名無しさん…」
大吾が小さくその名前を呼ぶとようやく、私は…、と名無しさんは言葉を絞り出した。
「…私は、大吾さんと……、ちゃんと…繋がりたい、ん…、です…!」
それを聞いた瞬間、大吾は目を見開いた。
「私を、見ないでください…っ」
しかし直後には、そう訴え腕の中から逃げようとする名無しさんをもう一度強く抱きしめていた。
「すまない…!」
「…なぜ、」
大吾さんが謝るのですかと訊く前に、大吾は続ける。
「俺が我慢すればいいと思っていた…。気付いてやれなくて…そんなことを言わせてしまって、すまなかった…」
「我慢して…いたんですか…?」
驚いたように顔を上げた名無しさんを見て、大吾はわずかに苦笑いを浮かべた。
「当たり前だろう?初めて抱いた時のお前を、忘れられるはずがない…」
それを聞いて恥ずかしそうに大吾の胸に顔を埋める名無しさんの頭を抱きしめながら大吾は、この時ようやく名無しさんが何を考えていたかに気付いていた。
「じゃあ、」
「しかしそれは駄目だ」
「え…」
リビングへと入りソファに落ち着くと、名無しさんは自分が大吾と繋がるために何をしたいかを話そうとした。
しかし何も言わないうちにそれは却下され、戸惑いを露わにする。
隣に座る大吾が、お互い向かい合うように自分と名無しさんの体をずらした。
「薬を、飲むつもりなんだろう?」
そういう手段があることくらいは知ってはいたが、
「お前にだけ負担をかけることはできない」
言いながら、膝に乗せられた名無しさんの手を握りしめた。
すると名無しさんはその大吾の手に自分の手を重ね、にこりと笑う。
「私自身が望んですることですから、負担なんかじゃないです」
「しかし…」
「だめ、ですか…?」
それでも渋る大吾を、少し拗ねたように、しかしねだるように名無しさんは見上げた。
「…っ」
大吾は一瞬言葉を詰まらせるがその後ふっと困ったように笑って、
「お前には…敵わないな」
更に上から握った名無しさんの手を、ぐっと引き寄せた。
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